ダイバーの傍らを矢のように駆け抜ける回遊魚の群れ・・・
君達いったい誰なのよ?
PADIジャパン/大阪オフィスの西川です。
今回は回遊魚全般についてお話させていただきます。
よろしければお手元に魚類図鑑をご用意いただくと幸いです。
最近のデジタル・カメラの普及によって、マクロ全盛になればなるほど被写体になりにくい回遊魚ですが、やはり遭遇できれば嬉しいサカナたちですね。
ただ、泳ぐスピードが速すぎて細かい部分を観察できないことが多く、「○○の仲間・・・」というところまでは予測がつきますが、特定することは難しくないでしょうか。
例えば、サバ科の中のカツオの仲間などでは、それこそあっという間に目の前を駆け抜けていくことが多いですね。
カツオやハガツオなど縦縞の特徴で判断できる場合もありますが、ヒラソウダ、マルソウダ、スマなどはとても判別不可能です(図鑑上では別ですが)。
しかも、そこに同じ仲間であるマグロの仲間の小型魚もよく混ざってくるので、こんな場合には「カツオの仲間がキビナゴの群れにアタックしてましたねー。何だったんでしょう?」と、はしょってしまう水中ガイドさんも少なくないかもしれません(笑)。
大型のイソマグロなどは下顎が発達していたり、側線が波打っているなどの特徴がはっきりしていてわかりやすいのですが・・・。
シイラやサワラはダイビングでは遭遇機会が少ないので、割愛します・・・。
ということで、私達のフィッシュ・ウォッチングの対象は主にアジ科(少し脚が遅い?)の仲間で、特徴を幾つか抑えておけば、水中でもお楽しみいただけると思います。
アジの仲間で、通称「ゼンゴ」と呼ばれる棘状(とげじょう)の鱗の有無で分けてお話したいと思います。
※ ゼンゴは、魚類学では稜鱗(りょうりん)あるいは盾状鱗(たてじょうりん)と呼びます。
まずはアジ科のゼンゴのない仲間から。
名前の由来にもなっている、目の上の八の字模様がかっこいいカンパチ。
このサカナはきっと好奇心が旺盛なのでしょう。
「遭遇した」というよりは「様子を見に来たぞ」という現れ方をよくします。
きっと私達の出す気泡をチェックしに来るのだと思います。
群れで周りをぐるぐる回られたりするとドキドキしますよね。
このカンパチにはヒレナガカンパチというそっくりさんがいて、エリアによっては混在します。
分布域から見るとヒレナガカンパチのほうが少し南方系で、日本海側で見かけることは稀です。
この「稀」という言葉にぜひ反応してくださいね。
逆に奄美以南の海域ではカンパチは水温の低い深場に多く、ダイバーが遭遇できるのはヒレナガカンパチが多いようです。つまり、カンパチが「稀」なのですね。
そして伊豆諸島から日本の太平洋沿岸、九州南部までは混在して見かけるエリアです。
特に40~60センチくらいの若魚は数匹から100匹くらいまでの群れを作りますが、この中に2種が混ざっていることもあれば、同じ仲間同士の群れになっている場合もあるようです。
ということで、ぜひ見分け方のコツを押さえておきましょう。
ヒレナガカンパチのほうは、その名のとおりそれぞれのヒレが長いのが特徴です。
目の上の八の字模様も少し濃いようですが、決め手は尾ビレの下先端にあります。
ある程度成長したカンパチは、腹ビレ、尻ビレ、尾ビレのそれぞれの先端が白くなっていますが、ヒレナガカンパチは尾ビレの先だけが白くなっていません。
各ヒレの先端は泳いでいるときは、どちらのサカナも体の下のほうで怪しく光る星のように見えますが、カンパチは3つ、ヒレナガカンパチは2つのなのですぐにわかります。
この特徴は撮影しても顕著にでるので、とりあえずデジカメで撮影しておけば後でも判別が可能です。
皆さんが今まで撮影されたものがあれば、見直してみてください。
カンパチの群れの中にヒレナガカンパチが混ざっていませんか?
この他、ゼンゴの無い仲間では、青い縦縞があってわかりやすいツムブリと、ほとんど判別が不可能なブリとヒラマサがよく観察できる仲間達です。
ブリとヒラマサの見分けに関しては体幅の差、上顎の形、胸ビレと腹ビレの長さの差など、水中では判別が難しいものばかりでしたが、少し前からおもしろい判別の仕方を発見しました。
どちらのサカナも体の中央に黄色い線が走っていますが、ヒラマサは胸ビレとこの黄色い線がくっついていて、ブリは少し白い隙間がある、といったものです。
このことは何人かの専門家にも問い合わせてみましたが、例外が多いとのことで残念ながら正式な見分けテクニックとは採用されませんでした(泣
でも、けっこう当たりますよ!
なんだか、太っているのが全部ブリみたいな見分け方ですが・・・(笑
また、泳ぎ方では、ブリの群れはまっすぐ、ヒラマサは小回りを利かせて泳いでいるという、ダイバーからの報告もあります。
次は、「ゼンゴ」のある仲間達。
これは種類が多いので、広く浅くいきましょう。
南日本で見かける体高のある種を見分けるためのポイントをエイヤッと挙げてみます。
● シマアジ:体の中心に黄色い線
● ロウニンアジ:顔が怖い!(笑)
● カスミアジ:蛍光ブルーの縁取り
● ギンガメアジ:エラブタ上部に黒斑
● オニヒラアジ:エラブタ上部に白斑
● カッポレ:ゼンゴが真っ黒
● ナンヨウカイワリ:体側に黄色い斑点
● ホシカイワリ:体側に5本の横縞
● クロヒラアジ:体側に8本の横縞
● インドカイワリ:下顎が大きくてピラニアみたい
以上で10種類、これにイトヒキアジやコバンアジなどの特徴のある仲間をおさえておけば、あなたはもうアジ博士です。エッヘン!
これらは、シマアジ以外は奄美以南でよく見かけますが、秋には幼魚が本土沿岸にもやってきます。
ピカピカと光るので、「メッキ」とか「メッキアジ」とも呼ばれていますが、数種類混じって泳いでいます。
実はこの15センチ前後の幼魚達の見分けのほうがずっとマニアックに遊べるのです。
ポイントは:
● カスミアジ:胸ビレが黄色
● ギンガメアジ:尾ビレが黒く縁取り、エラブタ上部に黒斑
● ロウニンアジ:尾ビレ上部のみ黒い
● オニヒラアジ:尾ビレは透明
これに居つきのシマアジが混ざるので、5種類ほとんど同じ体形でサカナ好きを惑わせてくれます。
これはハマりますよ。
※ 下のイラストは、違いを解りやすくするために形は成魚で描いてあります。幼魚はもう少しかわいらしい形をしています。
最後にとっておきのアジの見分けネタをひとつ。
今回取り上げた回遊魚達はみんな遭遇できるチャンスが多いとはいえません。
ただ、マアジの幼魚だけは本州のあちこちで夏ごろから大きな群れで沿岸に定着し、いつも私達を迎えてくれます。
このマアジのそっくりさんに「マルアジ」がいて、カンパチとヒレナガカンパチなんかよりもずっとゴチャゴチャに混ざって群れています。
マアジとマルアジの見分け方は、体高、小離鱗(しょうりき)と呼ばれる小さなヒレの有無などですが、図鑑で見てよくわかっていてもいざ水中ではなかなか難しく、私にとって長年の課題でもありました。
あるとき、ホバリングしている群れに上から近づいてみました。
すると上から見た背の色が全く違ったのです。
マアジはオリーブ色、マルアジは青緑色で、どの見分けポイントよりも簡単・確実だと思います。
地元の漁師さんがアカアジ、アオアジと呼び分けているのがよくわかりました(ちなみに、味はマアジのほうが美味しいそうです)。
皆さんもぜひこの方法で、皆さんのホームグラウンドの海での群れをチェックしてみてくださいね。
ということで、普通のサカナこそ奥が深い、といつもと同じ結論で締め括らせていただきます。
今回は回遊魚が対象だったので、どうしても種類を予想するための方法ばかりになってしまいました。
次回からは同じ魚種をじっくり見て、オス・メスの違いや生態観察を楽しんでいただけるような情報をお伝えしたいと思います。
筆者プロフィ-ル
西川 守(にしかわ まもる)
PADIジャパン/大阪オフィスのスタッフ。
とにかく魚が大好きで、いつもダイバー、釣師、魚屋さん、料理人のそれぞれの視点で魚を観察できる。 おかげで、いわゆるレアものより普通の温帯にいる魚が得意。 大の魚好きなことが高じて、オリジナルのPADIスペシャルティ「サカナとの遊び方SP」を作ってしまう。これまでに、白崎海洋公園、串本、越前、牟岐、大分、佐世保、上五島で、この「サカナとの遊び方SP」のイベントを開催。TVチャンピオン(テレビ東京系/現在は放送を終了)でお刺身を食べて魚種を当てるさかなクンを見て感動するが、いつの間にかそれが自分の得意技にもなってしまう。「生まれ変わったら伊豆大島の波浮港の水底で、つぶらな緑色のひとみで 仲間とひしめき合って水面を見上げているハオコゼになりたい」と常々思っている。
イラスト