これまで説明してきたことで、水中文化遺産とその研究の内容や国内における現状は、おわかりになったことと思います。今回は実際に海に潜り、海を身近に感じているダイバーが、水中文化遺産とその研究とどのようにかかわることができるのかについて、お話したいと思います。
黄金崎公園ビーチ沖(静岡県西伊豆町) 海面に顔を出す矢穴石[近世] アジア水中考古学研究所提供
ダイバーができること
それは「発見」と「保護」です。水中文化遺産、その中でも水中遺跡の多くは水中に潜らないかぎり、直接に見ることはできません。しかし、ダイバーの皆さんは潜ることができますので直接に見るチャンスがあります。最初にも触れたように、それを遺跡と認識していないだけで、すでに見ているのかもしれません。私自身、ダイバーですが、水中文化遺産に興味を持つ前は、水中を研究の対象として潜ったことはありませんでしたので、遺跡(遺構や遺物)を見たことも見つけたこともありませんでした。しかし、最近では初めてのポイントへ潜る際には、事前にその地区の歴史的背景を調べ、研究者の目で海底を見るようになってしまいました。
実際に、ファンダイビングのポイントに水中文化遺産が存在しているところはあります。たとえば、神奈川県小田原市石橋です。ここの海岸は、江戸時代に背後の山腹にある石切り場(石丁場-いしちょうば)から江戸城築城用に切り出した石垣用材を運び出すための積出港であったと考えられています。実際に、海岸には矢穴(やあな)と呼ばれる岩を割る際に、楔を打ち込んだ穴が等間隔に開けられている1辺90~200cm以上の大小の石(矢穴石)を多数見ることができますし、ファンダイビングエリアの海底にも同様の石や成形された石材を多く見ることができます。積み出す際に海底へ落としてしまったものもあったことでしょう。落とした石材は「城が落ちる」ものとされ、拾わなかったとも言われていますので、拾わずにそのまま海中残されて、現在にいたっているようです。このような矢穴石は、石丁場跡が確認されている小田原西部~伊豆半島の海岸で見ることができます。海岸にあれば、海底にもあるはずですので一度探してみてください。このほかにも近世陶磁器や瓦、石材などを見ることができるポイントは全国にあります。
石橋沖(神奈川県小田原市)
海岸際に残された矢穴石[近世]
アジア水中考古学研究所提供
石橋沖(神奈川県小田原市)
海底に残された直方体状に成形された石垣用材[近世]
アジア水中考古学研究所提供
ダイバーが水中文化遺産(遺跡)を見つけたら
それでは、ダイバーが水中で遺跡(遺物・遺構)あるいは遺跡かもしれないものを見つけたら、どのように対処したらよいのかを記しておきます。
調査のところでも説明しましたが、考古学では、「何が、どこに、どのようにあるのか」が重要ですので、大きなものはもとより、陶磁器片などの小さなものもできるだけ動かさないようにしてください。そして、そのモノ(遺物)の位置・水深情報の確認と状況や種類がわかるような写真を撮ってください。
ただし、ピンポイントでその場所へ再び行くことが難しい場合や、すぐに動いてしまうような土器や陶磁器の小さな破片の場合は、そのモノを取り上げてもかまいません。
大量にモノがあるときには、取り上げるのはできるだけ一部だけにするととともに、位置・水深情報の確認と写真撮影はするようにしてください。
また、遺物と断定できないこともあると思いますので、「遺物かもしれない」というものはすべて情報としていただければ幸いです。情報は多ければ多いほど助かります。
そして、情報は地元市町村教育委員会の文化財担当に知らせるとともに、できればアジア水中考古学研究所(Phone & Fax:092-611-4404/E-mail: kosuwa@f4.dion.ne.jp)にもご一報ください。
その情報が遺跡発見に繋がるかもしれません。