早春の海辺は人影も少なく、水も冷たいので、磯遊びをするのもなかなか大変なように思えます。
ところがさにあらず。早春は、以外に見所や楽しみどころが多いのです。
もちろん防寒対策などはきちんとしておく必要がありますが、寒さを忘れさせてくれるほど、いろいろなものに出会うことができるはずです。
箱メガネと小さなプラスチックケースでも持って、さあ磯に出かけてみましょう!
早春はヤドカリにとっては、恋の季節。
タイドプールの周辺でもっとも活発に活動しているのは、このヤドカリたちです。
おもしろいのは、オスが見初めたメスの殻をしっかりとつかみ、引きずり回しているということ。
夏なら人間に出会うとサッと殻に引っ込み、岩の上から転がり落ちるようにして逃げるヤドカリも、このときばかりはなかなかメスを離そうとしません。
彼らも恋の成就に必死なんですね。わかるなあ。
ついでに、何匹かヤドカリをつかまえてみます。すると、今にも壊れそうなボロボロの貝を背負っているヤドカリもいることでしょう。
ヤドカリの世界も住宅難?
そこで、何も入っていない同じくらいの大きさの貝殻をそばに置いてみましょう。
すぐにヤドカリは興味津々。サイズが自分に合うかどうかを、ハサミを使って測ったりした後、パッと移動してしまいます。
その素早いことといったら。見逃さないようにしましょう。
磯では、十脚目(じゅっきゃくもく)と総称されるエビ、ヤドカリ、カニの仲間を、イソスジエビ、ホンヤドカリ、イソガニといった具合に簡単に捕まえることができます。どれも10本の脚(はさみ脚も含めて)を持っています。
一見すると6本しか脚がないように見えるヤドカリも、殻から出してみると、体が殻からすっぽ抜けないように支えるために短く変化した脚がちゃんと4本ありました。
タラバガニなどでは、折りたたまれた腹部の中に1対の脚がしまわれていて、腹部の掃除などに使われています。
また、体の形がずいぶんと違って見えるように見えますが、エビ、ヤドカリ、カニの順に腹部が短くなっているだけで、基本的な形はどれも同じであることがわかるでしょう。
イソガニは、磯ではもっともポピュラーなカニです。
ところが、このイソガニに一見良く似たケフサイソガニというカニも見られます。
イソガニには脚に縞模様があるほか、ケフサイソガニのほうがより地味で、大人のオスのはさみの部分には細い毛の束があることで区別できます。しかも両者が、同じ場所で見つかることはまずありません。ちょっとでも泥っぽい磯にはイソガニはいませんし、さらさらの磯にケフサイソガニはいません。
これを利用すれば、ケフサイソガニが見つかったときには、その磯は泥っぽい内湾的な環境だと判断することができるのです。
最近は少なくなりましたが、昔の子供の図鑑を見ると、岩の上にはさみ脚を振りかざしているカニの姿が描かれていました。しかし、実際に、岩の上に出てきて自らを危険に晒すようなノー天気なカニは多くありません。
本州近辺の磯ではイソガニとイワガ二くらいのもの。
そのぶん彼らは、危険に対して敏感です。
特にイワガニは非常に素早く、大人でもなかなか捕まえられないほどです。
カニと遊びたい人は、原則として岩をめくったり、岩の割れめを覗いたり、水の中を探ることが必要です。
すごいでしょ。
イソスジエビは、磯ではもっともポピュラーなエビです。
透明で、身体に黒い縞模様が入るのが特徴です。あまりに有名なせいか、磯で透明で縞模様があるエビが採れると、反射的にイソスジエビと思ってしまうようですが、そうとは限りません。
まったく同じような場所に、スジエビモドキというエビも生息しています。
区別は案外簡単で、スジエビモドキのほうが黒い筋の数が少ないのです。
イソスジエビのほうがやや大きくなるので、スジエビモドキはイソスジエビの子供と思っている人もいるようです。
磯遊びで岩をめくっていると、必ず出くわすのがオウギガニ。
甲羅は扇形で模様はさまざまですが、ハサミの先が黒いのが特徴です。このカニは、危険を察知するや、すぐに死んだふりをします。だからこれ以上簡単に捕まえられるカニはいません。
でも、こんな固まるだけで本当に危険を回避できるのか、人事ながら心配になってしまいます。
でも、この行動が保持されているということは、間違いなく有効なのでしょう。
筆者プロフィ-ル
イラスト