海に遊びに来たのだから、海の中を見たい。
それは自然なことですね。
でも岩場でひと休みしているとき、たまにはその周りを観察してみてください。
おもしろい生き物にめぐり会えますように。
海はフィッシュウォッチングだけでなく、バードウォッチングにも最適な場所ということは、ダイバーには案外意識されていないようです。
夏に海岸で見られる鳥は、留鳥(りゅうちょう:基本的には一年中同一地区にとどまる鳥)が比較的多いので、その気になればいつでもチャンスがあります。
トビ、メジロ、ハクセキレイ、ウミウなどから始めるとよいでしょう。イソヒヨドリは、ヒヨドリと名がついていますがヒタキの仲間で、驚くほどの美声の持ち主です。
海岸の岩壁などにはハヤブサが営巣することもあり、勇壮な狩を目撃できるかもしれません。
アリの仲間は、人家周辺から奥山までいろいろな種が生息していますが、なんと海岸を好んで住むというアリもいるんです。
その名はイソアシナガアリ。名前の通り脚や触覚が長く、体長約4~6ミリ。
人家周辺でよく見られるクロオオアリより小さく、赤褐色でスマートな体形なので区別も比較的容易です。
波しぶきがかからず、それでいて草が茂らない岩場に巣を作るという変わり者。岩場でお弁当を開いたときにでも探してみてください。
海のゴキブリだと思っている人、多いと思います。
岩場で昼寝をしていてかじられた人、少数ですがいると思います。
私もその一人なので、これらの事実について弁護は難しいです。
しかし、彼らは、浜の清掃を無償で行なってくれている生物です。
そのぶん、敬意を払われてもいいですよね。
それから、意外なほど大きくてかわいい瞳もチャームポイントです。
そんなの、すばしっこすぎて観察できないって?
ならば、夜にでかけてみましょう。
驚くほどのろまになっている彼らを、好きなだけ手づかみできますよ。
さきほどバードウォッチングをおススメしましたが、海辺の鳥といえばカモメですよね。
ところがカモメの多くは、秋口に日本に渡ってきて、遅くとも5月には北に帰っていく冬鳥なのです。
ということは、入道雲の出た夏空を背景に飛ぶカモメの絵はウソ?
一概にウソとも言えません。
日本近海の特産種ウミネコだけは、ほぼ一年中各地で見られるからです。 ただ、この夏に見られるウミネコの幼鳥はくすんだ茶色ですし、空を見上げたときには腹側の白い親鳥も逆光のために黒く見えてしまいそうです。
青い空に白いカモメは、イメージの産物ということなのかもしれません。
貝類といえば、砂に潜っていたり、岩の裏にへばりついていたりするのが普通ですが、中には岩の上へ上へと出てくる目立ちたがり屋の貝もいるんです。
タマキビガイの仲間がその典型です。
そしてこの貝、真夏になると岩の上に立ってしまうことがあるのです。
熱くなった岩からの熱を避けるために、接する部分を最小にしようと立ち上がったあげく、体を引っ込めてしまうのです。
それでいてコケないのは、分泌された粘液が固まって糊の役目をしているから。ときには、2個の貝が重なっていることも。
そんなに熱いのがイヤなら、日陰に移動すればいいのにねえ。
春から初夏の海岸では、特有な植物がいろいろな花をつけます。
といっても、いきなり植物に興味を持てって言われてもなあ、と思ったあなたには、食べられる植物から入ることをおススメしましょう。
一番の有名どころはアシタバ。お浸しから天ぷら、汁の実、ふりかけまで、なんでもイケる万能選手です。
ツルナも、先端の若い茎や葉を塩茹でし、お浸しや酢の物にできます。
秋口まで長く利用できる点も嬉しいですよね。
美しい紅紫色の花をつけるハマエンドウは、砂に埋もれた白い部分を湯がいてお浸しに。 若い身を食べる地方もあるそうです。
その他、ツワブキ、ハマボウフウ、最近では栽培もされているオカヒジキなど、食べられる植物は意外にあるのです。
どんな植物か興味がわいたら、ぜひ探してみてください。
筆者プロフィ-ル
イラスト