日本ではクエはハタの代表のように扱われていますが、マダイやマゴイのように「真」の字が名前に冠せられる"マハタ"の存在も忘れてはいけませんね。実はこの2尾、ならべて見ると本当に綺麗な体をしています。クエは茶色、マハタはアズキ色の濃淡で、どちらも自然界が生み出した完璧なデザインだと思います。その中で、クエは横縞の前2本が頭のほうに流れているのに比べ、マハタは全て横縞のままです。これはもう見分け方というよりは鑑賞の仕方ですね(友永たろさんのイラストでも、色合いの違いを絶妙に表現していただいています。さすがです!)
マハタにまつわる見分け方では、ごく最近になってマハタとマハタモドキの見分け方が明らかになったようです。尻ビレのところの横ジマが2本に分かれているほうがマハタ、そうでなく整然と並んでいるのがマハタモドキだそうです。それが正しいとすると、ほとんどの図鑑が間違っていたことになるので、魚類学はまだまだ奥が深いですね。
ところで、クエとマハタはどちらが大きくなるでしょうか? 答えはマハタです。ネットで「カンナギ」と検索すると100㎏以上の巨大魚の写真がすぐにヒットします。これが実はマハタとマハタモドキの老成魚です。マハタは成長とともに深場へ移動していきます。ダイビングでは4~5mの深度で幼魚、20mぐらいで40cmぐらいの若魚を見かけますが、それより大きくなると深場におちていき、カンナギと呼ばれる巨大深海魚になるのです。前回登場のイシガキダイは成長とともに南へ下っていきましたが、マハタは深場へ降りていくんですね。
このカンナギにはマハタモドキの老成魚も含まれるようですが、大きくなると模様が不明瞭になるので、せっかくわかった先ほどの見分け方も通用しません。ただカンナギの写真をたくさんチェックしていると小型のカンナギには模様が残っているものいて、本州から伊豆七島はマハタ、沖縄本島から与那国島はマハタモドキと分布がはっきり分かれているようです。
以上、マハタに関する雑学でした。マハタはダイビングでは幼魚と遊ぶのに限るようです。今度、浅場でチョロチョロしている幼魚をみかけたら、何年か後には100キロ超級になる未来の大物だと思って、バカにせずに観察してくださいね。小さくてもちゃんと尻ビレのところの縦ジマが2本に分かれているのも確認してください。
温帯域で見られて大きくなるハタの仲間にスジアラがいます。こちらもかっこいいおサカナですね。底から少し上の中層を泳ぐタイプで、尾ビレの先がとがった三角形でわずかに湾入し、付け根が太く、いかにもよく泳ぎそうな体形をしています。もちろん、なかなか近寄らせてくれません。
このスジアラは沖縄では「アカジン」と呼ばれ、もっと南のオーストラリアにもたくさん分布していて、地域による個体差がかなりあるようです。 遊泳タイプのハタはバラハタ、オジロバラハタ、コクハンアラ、オオアオノメアラなど、南に行けばバラエティに富んだ仲間がたくさんいて、昔の図鑑では沖縄のスジアラと本州温帯域のスジアラは別種として記載されていたこともあります。
以上、クエは日本の温帯適応の浅場の仲間、マハタは成長に伴って深場へ移動していく仲間で、成魚は伊豆七島沖にも棲息し、スジアラは浅場対応で世界中に広範囲に分布と、同じ科の仲間なのに「住む世界が違う」ハタ達の一生は、いったいどうなっているんでしょうか?
というのも昨年、長崎県・五島のビーチスポットでこの3種に加え、オオモンハタ、ホウセキハタ、キジハタと幼魚ばかり6種類のハタを1ダイブで確認できたことがあります。みんな一様にスカーリングをして、下アゴを突き出したハタ顔でこちらの様子をうかがっておりました。ゆりかごのような内湾のポイントで、まさにハタの仲間の保育園の参観日のようなダイビングでしたが、みんなそこから大きく育っていくんでしょうね。
ハタの仲間はそっくりさんの見分け方(例:アカハタvsアカハタモドキ)や、そのうちきっと別種になりそうなサカナ(キジハタの赤いタイプと黄色いタイプ)など話題には事欠かないので、次の機会にはもっとネタを収集しておきますね。
筆者プロフィ-ル
西川 守(にしかわ まもる)
PADIジャパン/大阪オフィスのスタッフ。
とにかく魚が大好きで、いつもダイバー、釣師、魚屋さん、料理人のそれぞれの視点で魚を観察できる。 おかげで、いわゆるレアものより普通の温帯にいる魚が得意。 大の魚好きなことが高じて、オリジナルのPADIスペシャルティ「サカナとの遊び方SP」を作ってしまう。これまでに、白崎海洋公園、串本、越前、牟岐、大分、佐世保、上五島で、この「サカナとの遊び方SP」のイベントを開催。TVチャンピオン(テレビ東京系/現在は放送を終了)でお刺身を食べて魚種を当てるさかなクンを見て感動するが、いつの間にかそれが自分の得意技にもなってしまう。「生まれ変わったら伊豆大島の波浮港の水底で、つぶらな緑色のひとみで 仲間とひしめき合って水面を見上げているハオコゼになりたい」と常々思っている。
イラスト