改めて述べるまでもなく、浮力コントロールはダイビングで最も重要なスキルのひとつであることに疑いはないでしょう。更にいえば、浮力をコントロールするスキルは全てのダイバーに必要なサバイバル・スキルの基本でもあります。
潜降時、水面でのプラス浮力の状態からBCD及び/またはドライスーツの空気を抜いた途端に急激なマイナス浮力になり「落ちる」ことなく、潜降の途中でトラブルが発生した場合に適切に対応できるよう、上にも下にも右にも左にも自由に動ける状態、つまり浮力をすぐにニュートラルにできる状態を維持しながら潜降すべきです。
水中では、水底に触れることなく中性浮力が維持できているダイバーは、手足の無駄な動きがなくメンタル面でも肉体面でもリラックスしており、視野も広いのでトラブルやその他の異常に気付きやすく、故にいざという時の対応も早くなり、最悪の状態になりにくいと言えます。
浮上時は、潜降時と同様の理由で、浮上しながらでも浮力をすぐにニュートラルにできることが重要ですが、減圧症に対するリスクを考えた場合、トラブルが何もなくても一定のゆっくりした速度を保ったまま浮上する技術が必要であり、不活性ガスのスムーズな排出のためには一定のスローペースで浮上するスキルは必須です。
このように考えると、ダイバーは潜降開始から浮上が終了し、水面での安全が確保されるまで、ダイビング中は常に浮力をニュートラル、または直ちにニュートラルにできる状態であるようにコントロールしていることで、必要な場合の緊急時のアクションを素早く起こすことができ、またリラックスしてダイビングをより楽しむことができるのであり、これが浮力をコントロールするスキルがサバイバル・スキルの基本であるとされる所以です。
テクニカル・ダイバーはレクリエーショナル・ダイバーと比べ装備が多い分だけ浮力をコントロールすることが少々難儀ではありますが、トレーニングにより、より正確に浮力をコントロールできるようにならなければなりません。ただ、オープン・サーキットの場合、タンクの本数が増えても基本的な浮力のコントロール方法に変わりはなく、故にシングル・タンクでの基本ができていればさほど問題なく対応できます。もし不安があるようであれば、徹底的に練習しマスターする必要があります。
ダイビング中はガスが消費されるにつれ、浮力が増加していきます。特に使用しているシリンダーがアルミ製の場合は顕著に現われます。各マニュアルに記載されているように、ガスを消費した後に行なう安全停止/減圧停止が満足に完了できることを考慮しなければなりません。万一そのまま水面まで吹き上がってしまうと、減圧症、動脈のエンボリズムのみならず、水面にあるボート等に関連するトラブルに巻き込まれる場合もあるかもしれません。
これを機に自分の浮力コントロールを再確認してください。繰り返しますが、不安があればマスターするまで練習してください。もし練習するだけの「つまらない」ダイビングを何度か行なうことになったとしても、浮力のコントロールをマスターした後のダイビングは劇的に安全で楽しいものになるでしょう。