青い海に潜って、誰もがまず「うわー!」と思うのは、キンギョハナダイのオレンジではないだろうか。キンギョハナダイは南国にももちろんたくさんいるけれども、伊豆などでも広く見られる、言ってみれば"普通の魚"だ。にもかかわらず、南の島の雰囲気がたっぷりあって、なんだか見るととても嬉しくなる、ありがたい存在でもある。
20何年か前に初めて紅海に行ったとき、サンゴの根の上を無数のキンギョハナダイが覆っている美しい光景を見て本当に驚いた。この世のものとは思えないほどの見事な海底楽園だった。紅海のキンギョハナダイは色がほかの場所のものよりも、より深いオレンジ色をしているのだが、このことも僕の心を更にくすぐったのかもしれない。
オレンジといえば、洞窟の中や、ナイトダイビングのときに暗闇の中でライトに浮かび上がるイボヤギも強烈だ。昼間の明るい海では触手を引っ込めているのであまり目につかないが、闇に急に浮かび上がるそのオレンジの姿は、美しくもあり、グロテスクでもある。
一度その大きなオレンジの触手が小魚を捕まえて食べているのを目撃したとき、美しい女が夜中に本性を現し、長い舌を伸ばして男の首を絞めているような、見てはいけないものを見てしまったような感覚になったことがある。
オレンジ色は、喜びや創造性などの色、とも言われるが、クールなブルーの海の中で、キンギョハナダイなどの魚は、ひときわ鮮やかな喜びの色として、目に飛び込んでくるのだろう。
僕が初めて海に潜ったのは30年以上も前のこと。西オーストラリアのフリマントルという港での初海洋実習で、最初に目に飛び込んできたのは、防波堤に張り付いたオレンジ色のカイメンたちだった。そのカラフルさに思わず「うわ~!すげえ!」と海の中で叫んだのを今でも憶えている。
高砂淳二プロフィ-ル
たかさご じゅんじ。自然写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。 ダイビング専門誌の専属カメラマンを経て1989年に独立。 海の中から生き物、風景まで、地球全体をフィールドに、自然全体の繋がりや人とのかかわり合いなどをテーマに撮影活動を行っている。 著書は、月の光で現れる虹を捉えたハワイの写真集「night rainbow ~祝福の虹」(小学館)をはじめ、「虹の星」、「free」、「BLUE」、「life」(ともに小学館)、「ハワイの50の宝物」(二見書房)、「クジラの見る夢 ~ジャックマイヨールとの海の日々~」(七賢出版)、「南の夢の海へ」(PIE BOOKS)など多数。 2011年5月には、ハワイの写真集「Children of the Rainbow」(小学館)が発売された。 「太平洋島サミット記念写真展"PACIFFIC ISLANDS"(コニカミノルタ・プラザ)」 、ザルツブルグ博物館、渋谷パルコ、阪急百貨店など、写真展多数開催。
◆高砂淳二 オフィシャルウェブサイト http://www.junjitakasago.com
◆高砂淳二 オフィシャルブログ http://junjitakasago.com/blog/
◆高砂淳二 Facebookページ http://www.facebook.com/JunjiTakasago