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DD NETドクターからのアドバイス

-第2回- 減圧症の予防

潜水深度と潜水時間を守っただけでは減圧症は防げない

減圧症になった患者さんのダイブ・プロフィールを調べると、最大水深は20mで潜水時間は40分程度です。これは減圧症に罹っていないダイバーと差はありません。減圧症に罹ったほとんどのダイバーがダイブ・コンピューターの指示を守っています。

何人かのグループで、いつものように潜っていて、あるときそのうちの一人が減圧症になります。減圧症のリスクは体質による個人差があり、日によって体調や環境も変わるため、いつも同じではないからです。ほとんどのダイブ・コンピューターは後述する基本リスクしか考慮していないので、減圧症を完全には予防できないのです。

ダイブ・コンピューターの技術が進んだ今でも、リスクを下げるには自己判断が重要です。「今日は水温が低いので、潜水時間を短めにしておこう」、「自分はちょっと肥満気味だから安全停止を少し長めにしておこう」などといったことです。

減圧症のリスク・ファクター

ここでは空気を使った潜水時間の60分以内、最大深度30mくらいまでのレジャー・ダイビングを想定しています。 基本リスクは、ダイブ・コンピューターに表示され、ログブックにも記録する必要のある数字で表される要因です。ダイビング原来のリスク・ファクターといえます。

基本リスク

●潜水深度
水深20mより深いところの滞在は短く。深いところは潜降直後に。平均深度はできるだけ水深15mより浅く。
水深30mより深く潜ると減圧症だけでなく、骨壊死(骨が腐る病気)発祥のリスクも高まります。
同じ水深ならエンリッチド・エア(ナイトロックス)を使用したほうがリスクは下がります。

●潜水時間
潜水時間とは本来、潜降開始から浮上開始までの時間。そのため、最初に深いところに潜ってだんだんと浅くなるようなダイビングでは、正確な潜水時間はわかりません。
潜降開始から安全停止までの時間を潜水時間としてしまえば、ダイブ・コンピューターよりもダイブテーブルを守ったほうが通常リスクは下がります。
水中に滞在する時間が長いと半飽和時間の長い組織(窒素が溶解しずらい組織)にも窒素が溶け込み、浮上中にもかかわらず溶存窒素が増える組織が出てきます。
潜降開始から安全停止開始までの時間が50分を超えるようなときは要注意です。

●浮上速度
本来、浮上速度はダイビングした深度と水中にいた時間とのバランスで決められるものです。
PADIオープン・ウォーター・ダイバー・コースでも習ったとおり、毎分18mより早い速度で浮上してはいけません。
お勧めは毎分9mくらいの浮上速度です。毎分3m以下の速度で浮上することはリスクが上がるとの報告もあります。
浅い水深ほど圧力の変化が大きく、気泡は急速に増大するので、慎重に浮上する必要があります。
浅い水深ほど、ダイブ・コンピューターの浮上速度警告を出してはいけません。

●安全停止の深度
水深3~5mが基本。
安全停止しているときはある程度運動したほうが窒素の排泄が進むため、じっとしているよりは水深5mくらいの根を見てまわりながら過ごすのもよいでしょう。

●安全停止時間
3分間は最低限のルール。5分間だと安全率はさらに上がります。
安全停止時間はダイビングした深度と潜水時間のバランスですので、深度と時間が長ければ、その分長くするべきです。
浮上中に最大水深の半分の深度で停止する「ディープ・ストップ」は、リスクを減らすためには効果的です。停止時間は2分半を推奨します。
「ディープ・ストップ」より、従来の安全停止(シャロー・ストップ)のほうがリスク軽減率は高いです。

●ダイビングの回数
1日に行なうダイビングの回数が増えれば、減圧症の発生率は上がります。可能なら1日2本までが望ましいところです。
12時間以内に3回のダイビングを行なうようなときには、深度と時間を控えめにすることをお忘れなく。

●水面休息時間
PADIを始めとするダイビング教育機関でもっともよく使われているUSネイビー標準ダイブテーブルを使用した調査では、ほとんどのダイブテーブルでは圧力グループ記号F以降の記号(Zに近い記号)のダイバーに発症します。
圧力グループ記号F以降のダイバーの場合、1時間30分以上の水面休息時間をとると、圧力グループ記号は2段階以上(例えば F は D に、I は F になる)若くなります(残留窒素が少なくなり、リスクが下がります)。
このことから、水面休息時間は1時間30分以上とることを心がけてください。

●ダイビング・ポイントの標高
標高が高ければ高いほど、リスクも高くなります。
ダイブ・コンピューターが示す高所潜水モードよりも低い標高でも影響がないとはいえません。
淡水のポイント(少なくとも海水より標高が高い)でのダイビングでリスクを下げようとするならば、高所潜水モードにします。
低気圧(天候の悪化)によるリスクデータは今のところありません。

誘因

●中高齢者
経験年数と経験本数が多くても、減圧症のリスクは年齢と共に高まります。40歳以上の方は特にお気を付けください。

●肥満
肥満は古くからよく知られた減圧症のリスク。
最近ではメタボリック症候群の指数で知られるようになったBMI(ボディー・マス・インデックス:体重(kg)÷身長(m)÷身長(m))の数値が25以上の方は要注意です。

●昔のケガ(古傷)
ケガをしたところには気泡ができやすくなります。
ダイビング中、過激に動かした部位にも症状が出やすいので注意です。
ケガ+運動はリスクアップです。

●前日の飲酒
できれば全く飲まないのが望ましいですが、飲むとしてもビール1本または日本酒1合まで。
飲み終わってからダイビングをスタートさせるまでの時間は最低でも12時間とりましょう。
飲酒後は脱水症状も見受けられるので、アルコール以外の水分摂取を多めにして、脱水を予防すべきです。

●脱水
前日の飲酒量が多かったり、下痢などをしているときは脱水ぎみの可能性があるので、水分摂取を多めに。
ダイビングの前後にそれぞれ400ml以上水分を取ることをお勧めします。

●体調不良
何をもって体調不良とするかは明確ではありませんが、古くから知られているリスクです。
睡眠不足や疲労感、精神的ストレスがあるときには注意しましょう。

●水温
寒いと感じたら、すでに組織の血液循環は低下しています。
減圧中、血液の循環が悪くなると窒素の排出が遅れ、リスクは高くなります。

●冷え
ドライスーツを着用しない水温20度以下のダイビングでは、身体が急速に冷えるのでリスクが高くなると考えておいたほうがよいでしょう。

●潜降と浮上の繰り返し
ダイビング中の潜降・浮上の繰り返しはリスクを高めます。
水深6mを超えるような急激なアップダウンは避けましょう。

●運動量の多さ
ダイビング中、運動量が多い組織には多くの窒素が分配されます。
運動量が多いと二酸化炭素が身体に溜まりやすくなります。 二酸化炭素の蓄積は減圧症のリスクを高めます。
しかし、安全停止中の適度な運動は血液循環を改善し、窒素の排出が促進され、減圧症のリスクは低下します。
ダイビング後の運動はリスクを高めると考えられています。

●ダイビング直後の温浴
身体が冷えているうちに熱いシャワーを浴びたりお風呂に入ると、溶解している気体は気泡化しやすいため、減圧症のリスクが高まるといわれています。
しかし、逆に血液循環がよくなるので窒素の排出が促進され、リスクが相殺されるとも考えられます。
よって、入浴については温度も時間もほどほどがよいでしょう。

●ダイビング後の高所移動
標高400m以上の移動は明らかに発症リスクが高まります。
ダイビングの終了時点で圧力グループ記号がFまで、高所到着時にAまたはBであれば安全性は高いといわれています。

●ダイビング後の飛行機搭乗
ダイビング後18時間以内の飛行機搭乗は、減圧症発症のリスクが高くなることが知られています。
さらに念のため、ダイビング後24時間はあけたほうがよいでしょう。

●体質
メディカル・チェックでリスク・ファクターを調べることをお勧めします。
例えば、心臓の中の左右を仕切る壁に穴が開いている卵円孔開存(らんえんこうかいぞん)は日本人の10人に1人の割合で見つかっており、減圧障害のリスク・ファクターになります。心臓の超音波検査で調べることができます。

ここに上げたリスク・ファクターは一例です。
他にも、潜水ブランクや減圧症の経験、スキップ呼吸、女性であれば生理中や生理前、ピルの服用なども減圧症の誘因となり得ます。

以上、27項目のリスク・ファクターをあげましたが、毎回のダイビングでのリスクは同じものではなく、その日の体調やそのダイビングのスタイルによって、それぞれ異なるものです。
ダイビングごとにリスクになりそうなものを減らし、減圧症を予防することを心がけてください。

 

筆者プロフィ-ル

山見信夫(やまみ のぶお)
医療法人信愛会山見医院副院長、医学博士。
宮崎県日南市生まれ。杏林大学医学部卒業。 宮崎医科大学附属病院、東京医科歯科大学大学院健康教育学准教授(医学部附属病院高気圧治療部准教授併任)等を経て現職。
日本高気圧環境潜水医学会理事・評議員・専門医
日本小児科学会専門医、日本臨床内科医会専門医、日本プライマリケア学会指導医、日本体育協会スポーツドクター、日本医師会認定健康スポーツ医、日本医師会認定産業医
海上保安庁や警視庁の潜水訓練においても、長年、講師を務めてきたダイビング歴30年、インストラクター歴26年のダイバー。
月刊マリンダイビングと月刊ダイバーに連載中。
◆ドクター山見公式ウェブサイト:http://www.divingmedicine.jp/

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