意識的に背景をブレさせて撮影するテクニック=「流し撮り」を使った。正統的な水中写真を撮るための水中モードをあえて使わず、バランスを崩して撮影した。絞りを絞り気味に設定して、シャッター速度を手ブレしてしまう速度まで落とす。すると、魚の動きに合わせてカメラを振ることによって背景が大きくブレる。魚にはフラッシュ光を当ててブレを止めている。ブレを上手く使うか? ブレてしまって失敗するか? ブレを味方につけて効果的に見せる方法もあるのだ。
水中写真においてブレて失敗した写真を検証すると、大きく分けて2つのタイプに分類できる。被写体があまりにも早く動くのでブレて写るタイプと、被写体は大きな移動はないがカメラが動いてしまってブレが発生してし まうタイプの2種類だ(これの混合の場合もあるが)。
どちらのタイプにしてもシャッター速度が遅い状況で発生するので、基本的にブレを克服するにはシャッター速度を高速側にシフトさせればよい。コンパクトカメラの場合、シャッター速度をマニュアルで設定できるような撮影モードが搭載されていない場合が多いので、操作的には、ISO感度を高感度に設定して自動的にシャッター速度を上げる手法が有効だ。
一昔前のデジタルカメラの場合、高感度にすればするほどノイズが増えていたが、最近はある程度解消されているようだ。一概にここまでは感度を上げてOKと定義することは難しいが、最新のコンパクトデジタル機種であれば、ISO800までは実用的な高感度として私も使っている。カメラによってはISO3200とかISO6400などとさらに高感度な設定もあるが、ISO800くらいがノイズも少なく、きれいな作品を撮る場合の限界値と考えてよいようだ。
例えば、ISO100時に1/30秒のシャッター速度の露出環境であれば、ISO800時では1/250秒までシャッター速度を上げられることになる。カメラが少々動いても、魚たちが素早く泳いでも、このくらいのシャッター速度が使えればブレは軽減できるはずだ。
さらに、フラッシュを使うという手もある。シャッター速度が遅くても、フラッシュを使うとブレているのがわかりづらくなる効果がある。このテクニックを「スローシンクロ」と呼んでいるが、フラッシュの光は閃光と呼ばれ、一瞬の光で被写体を照らし出す。一瞬光ったときに露光するのでブレが止まったように写るが、フラッシュ光の届かない場所はカメラが動いた分、ブレが発生する。ここで生まれたブレを効果的に利用し、躍動感やスピード感のアップに利用する手もある。今月のお手本の写真はこの手法を用いて撮影している。
清水 淳 Profile