身近なおサカナの魚眼レポート 〜 第1回 イシダイ(前編)

身近なおサカナの魚眼レポート

-第1回- イシダイ(前編)

こんにちは PADI大阪オフィスの西川です。 今回から新シリーズのおサカナ連載コラムを始めることになりました。これまでも身近で地味なおサカナネタにお付き合いいただきましたが、今回からのコラムも、話題のレア物は最前線のガイドの皆様にお任せして、私はよりディープに、地味なおサカナをじっくり見つめていきたいと思います。

私の得意分野は、ダイビング以外にもおサカナにまつわる雑学に詳しいことなので、"視野を広くもつ"という意味で、「身近なおサカナの魚眼レポート」と題してスタートします。 1つの魚種につき2回のシリーズで、最初は今まで取り上げてこなかった「イシダイ」からスタートします。

ご存知のとおり、岩場で普通に見かける、横縞(縦ではありません!)が7本あるおサカナですよね。幼魚は人懐っこくてかわいらしく、大きくなるにつれて風格が出てきます。

ところで、いきなりですが、イシダイをじっくり見たときの綺麗さをご存じですか? ポイントは、成魚になってくると体色がほんの少し藤色がかってくるところです。後に登場する近似種のイシガキダイがまったくモノトーンな"いぶし銀"なのと対比して、どちらもなんともいえず綺麗でかっこいいおサカナだと思います。イシダイのシマ模様とイシガキダイの斑点は、ちょうどトラとヒョウのような関係なのでしょうか。

実は、この魚たちを「綺麗、かっこいい、王者の風格、男の美学、幻のサカナ」と思って入れ込んでいる人たちが皆さんのすぐ近くにいるのです。 皆さんがボートダイビングなどで潜っているポイントに近い場所をフィールドとして使っている釣りに「磯釣り」というジャンルがあります。よく、釣り人が沖の離れ磯に渡船で渡してもらって竿を出している光景を見かけませんか? ボートに乗船する港でもライフジャケットに磯靴姿の人々を見かけることがあると思います。この磯釣りには大きく分けて、仕掛けを中層にウキで流して狙う「上物釣り」と、底に這わせて狙う「底物釣り」の2種類があります。イシダイは底物釣りの王様で、めったに釣れないサカナの代表であり、幻のサカナ扱いです。イシダイやイシガキダイを狙う人たちは「底物師」と呼ばれ、釣り人の中でも一目をおかれる野武士のような集団です。

でも、皆さんが潜っているポイントでは、ごく普通にイシダイを見かけると思いませんか?きっとイシダイはとても賢くて、たくさんいてもそんなには釣られず、悠々と泳いでいるのだと思います。 この王様を釣るために底物師たちはサザエ、トコブシ、ウニ、イセエビなど高級食材を惜しげもなく餌に使います。イシダイは歯がクチバシのようになっていて、磯場にある硬い殻を持っている生物も平気でつついて食べてしまうのです(さすがにサザエをそのままかじったりはしませんが)。

また、ものすごく力の強いサカナとして扱われています。これは、磯場に斜め上から這わせた仕掛けで、穴の中にもぐりこもうとするイシダイと引っ張りあいをするので、岩に糸が少しくらいこすれても平気なように太い糸を使って強引に釣り上げるからです。上物釣りの代表魚・メジナと比べて、同じ50cmくらいのサカナを狙うのに、5倍以上丈夫な仕掛けを使います。 具体的に、イシダイ釣りの道糸として、平均的に使われる透明なナイロンモノフィラメント20号で、直径0.74ミリなのに直線引っ張り強度はなんと30kg以上もあります。到底人間が手で切れるものではありません。そんなに強くても根がかりといって、水底に引っかかってしまうと岩との摩擦であっけなく糸を切ってしまうので、水中にこのナイロンがただよっていることがあります。

実は、これこそが日本のダイビングにナイフがかかせない原因で、水中拘束とは海草などではなく、水中に放棄された釣り糸や魚網からの拘束であり、ダイバーナイフはそれに備えるための物なのです。AWAREの観点からすれば見つければゴミとして回収したいものですが、拘束にはくれぐれも注意してください。

オスとメスの見分け

オスとメスは30センチを超える頃から外観に違いがでてきます。メスは横縞が残るのに対して、オスは下半身からだんだん縞が消えて、40センチくらいになると縞のない銀色のおサカナになります。紀伊半島ではそれぞれを本ワサ、銀ワサと呼び分けています。 オスはさらに大きくなるにつれて口の周りが黒くなってきて、大型魚はクチグロと呼ばれます。 イシガキダイのほうは、こちらはオスの老成魚は口の周りが白くて体は黒く、クチグロと真反対なデザインになって、その名もクチジロと呼ばれるようになります。昔はイシダイの大型魚?として謎の魚でした。 イシダイもイシガキダイも日本の各地で見かけますが、なかなかその生活史は不明な点も多いようです。

次回はそれぞれの分布や移動についてお話しします。

筆者プロフィ-ル

西川 守(にしかわ まもる)
PADIジャパン/大阪オフィスのスタッフ。
とにかく魚が大好きで、いつもダイバー、釣師、魚屋さん、料理人のそれぞれの視点で魚を観察できる。 おかげで、いわゆるレアものより普通の温帯にいる魚が得意。 大の魚好きなことが高じて、オリジナルのPADIスペシャルティ「サカナとの遊び方SP」を作ってしまう。これまでに、白崎海洋公園、串本、越前、牟岐、大分、佐世保、上五島で、この「サカナとの遊び方SP」のイベントを開催。TVチャンピオン(テレビ東京系/現在は放送を終了)でお刺身を食べて魚種を当てるさかなクンを見て感動するが、いつの間にかそれが自分の得意技にもなってしまう。「生まれ変わったら伊豆大島の波浮港の水底で、つぶらな緑色のひとみで 仲間とひしめき合って水面を見上げているハオコゼになりたい」と常々思っている。

イラスト

友永 たろ(ともなが たろ)
イラストレーター。主に キャラクター製作、児童書イラストを描く。
魚や水生生物が大好きで、独特のタッチで描かれる魚たちのイラストはいろいろなところで目にかかることも多い。
最近ではFlashでムービー作成にはまっている。
ホームページ「ぼくのすいぞくかん(http://boku-sui.net)でイラスト&Flashムービー公開中。

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