身近なおサカナの魚眼レポート 〜 第2回 イシダイ(後編)

身近なおサカナの魚眼レポート

-第2回- イシダイ(後編)

1990年7月16日、場所は和歌山古座の「上瀬(かみせ)」にマルチレベルSPの1本目で潜っていたときのことです。「上瀬」の南側にある、トップが深度30mの平らな離れ磯で、500尾以上のイシダイの群れを目撃しました。ちなみに水温は19度、透明度は18mで、自分の1,114本目のことです。
(ね、やっぱりログブックはつけておくべきでしょう? このときのお客様のお名前もわかりますし、おじさんになってから時々見直す楽しみは格別ですよ)

普段は単独か数尾でしか見かけない大型のイシダイが大群でいて、大感激だったことを覚えています。ずっと後になって文献で、イシダイが集団で南下し、産卵行動をとることを知り、きっとこのときの群れが産卵のためだったんだ、と気づいてさらに興奮しました。自分のアタマの中では、紀伊半島南東部にいるすべてのイシダイが一同に会して集団お見合いをしていた図として残っています。さらに、その光景を思い出すときには、周りの水が受精卵で白濁していたように記憶が修正されてしまっています。 こういった産卵のための大群は、長崎県の上五島でも目撃できるポイント(PADIこだわりツアーでも紹介されている「高麗曽根」)があるそうなので、今後皆さんも目撃できるチャンスがあるかもしれません。

イシガキダイとクチジロ

イシダイの仲間のイシガキダイの産卵行動は、本州では見ることができません。もともとイシガキダイの分布はイシダイより南にずれていますが、イシダイに比べて5℃ほど高水温にならないと成熟卵を持たないことがわかっています。産卵場所は種子島・屋久島以南のトカラや奄美、沖縄周辺だとされています。

つまり、伊豆や紀伊半島で見かけるイシガキダイは地元生まれではなく、幼魚時代に流れ藻などと一緒に黒潮に乗って辿り着き、ある程度成長したら産卵のために南下していく、と思われます。 自分の知っている範囲では、40cmまでのイシガキダイは南紀で、50cm以上の“クチジロ”サイズは奄美や沖縄でよく見かけます。沖縄では「ガラサーミーバイ」という名前で高級魚として扱われています。

さて、ここで、このサカナ達の最大の謎を書きますが、ここから先は裏付けがないので、あくまで西川の妄想として読んでくださいね。 実はこのクチジロの最大級は、沖縄ではなく南紀や四国南西部で目撃、漁獲されています。 釣り界でも、日本記録は88.5cmが長崎県男女群島で、それ以外の80cmクラスはほとんど四国南西部で釣り上げられています。

自分も1982年12月20日に潮岬近くの「ホーラク」というポイントで(しつこいようですがログブックの126本目です。笑)、どう考えても80cm以上あるクチジロを目撃したのですが、日頃の行ないが悪いせいでホラ吹き扱いされてしまいました。これがきっかけで、これまで30年間、クチジロに関する記述をずっとチェックしてきました。

当時、南紀や四国南西部ではイシガキダイとクチジロは別のサカナと思われていました。 イシガキダイとクチジロの中間(40~50cm)がいないからです。 ということは、南の海で生まれたイシガキダイの一部は流れ藻などと一緒に黒潮に乗って本土に流れ着き、成長したら産卵のために南へ下り、何年かして繁殖行動に適さないおじいさん(クチジロ=オスのみ)になったらまた北上し、四国南西部や南紀で老後を養うという生活史をもつのでは、と予想できます。あくまで予想ですが、どこかで大きなクチジロを見かけたら思い出してください。

ただ、最近は小笠原諸島のクチジロがよく話題になっています。小笠原のクチジロは自分にとってはまったく情報がありません。どこからやって来てどこに行くのか、どなたかぜひ教えていただければと思います。

また、ハナミノカサゴとミノカサゴのように、南に分布がずれているハナミノカサゴの生息域が圧倒的に広範囲であれば、ハナミノカサゴからミノカサゴが別種として分かれたと予想できますが、イシダイとイシガキダイの場合はどちらが種として先なのかという、考えれば考えるほど眠れなくなる問題もあります。

種の予想(見分け)、オスとメスの見分け、分布、繁殖行動、生活史など、イシダイとイシガキダイはじっくり付き合うと本当に興味深い、でも、普通にどこにでもいるおサカナなのでした。

筆者プロフィ-ル

西川 守(にしかわ まもる)
PADIジャパン/大阪オフィスのスタッフ。
とにかく魚が大好きで、いつもダイバー、釣師、魚屋さん、料理人のそれぞれの視点で魚を観察できる。 おかげで、いわゆるレアものより普通の温帯にいる魚が得意。 大の魚好きなことが高じて、オリジナルのPADIスペシャルティ「サカナとの遊び方SP」を作ってしまう。これまでに、白崎海洋公園、串本、越前、牟岐、大分、佐世保、上五島で、この「サカナとの遊び方SP」のイベントを開催。TVチャンピオン(テレビ東京系/現在は放送を終了)でお刺身を食べて魚種を当てるさかなクンを見て感動するが、いつの間にかそれが自分の得意技にもなってしまう。「生まれ変わったら伊豆大島の波浮港の水底で、つぶらな緑色のひとみで 仲間とひしめき合って水面を見上げているハオコゼになりたい」と常々思っている。

イラスト

友永 たろ(ともなが たろ)
イラストレーター。主に キャラクター製作、児童書イラストを描く。
魚や水生生物が大好きで、独特のタッチで描かれる魚たちのイラストはいろいろなところで目にかかることも多い。
最近ではFlashでムービー作成にはまっている。
ホームページ「ぼくのすいぞくかん(http://boku-sui.net)でイラスト&Flashムービー公開中。

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