身近なおサカナの魚眼レポート 〜 第7回 ブリとヒラマサ

身近なおサカナの魚眼レポート

-第7回- ブリとヒラマサ

今回のシリーズも残り2回で一旦終了させていただきます。そこで、すべての魚種が出揃ったところで、自分にとって身近なサカナの定義は何なのか、を考えてみました。

自分はダイビング業界に身を置いてはいますが、最近のダイビングでのレア物の情報は現役のインストラクターの皆さんの足元にも及びません。それどころか、現場の皆さんにとっては常識レベルのことも、お答えできないことがきっとたくさんあります(いじめないでくださいね)。

今の自分に可能なことは、ダイビングで遭遇できるサカナに関する情報で、遊魚業界、水産業界、流通業界、料理に関するものや養殖に関するものなどを集約して、まとめてお話できる、ということだけです。そういった雑学を知っておくことによって、次回、海で遭遇した際に、皆さんにより愛着を持ってサカナたちを見ていただければ、と思っています。

そういった観点から、今回と次回で、ブリ、ヒラマサ、カンパチ、ヒレナガカンパチについて、どこまでもディープに掘り下げてみたいと思います。

ブリとヒラマサの見分け方はもう30年以上も悩みつづけてきました。 ご存じのようにブリは出世魚で、大きくなるにつれ関東ではワカシ(30cmまで)、イナダ(50cmまで)、ワラサ(80cmまで)、ブリ(80cm以上)となり、同じく関西ではツバス、ハマチ、メジロ、ブリと呼ばれます。4~50cmのハマチサイズは日本海でフクラギ、九州でヤズなど、各地で呼び名があるほど日本人にはなじみ深いサカナです。

淡路島の漁村に田舎があり、休みごとに帰省していた自分にとって、一本釣りの漁師さんが釣ってくるハマチはとてつもなく貴重なサカナでした。ところが、1970年以降、各地でハマチの養殖が盛んになるにつれ、大阪の魚屋さんでも普通に見かけるようになってきました。今では関東でも天然魚はイナダ、養殖魚はハマチと呼び分けるようになってしまいましたが、すでに当時からマダイと並んで養殖魚の代表のようになりつつありました。

そんなとき、西日本の釣りの世界でヒラマサフィーバーが始まりました。南極産のオキアミを撒き餌として磯場や船で使うようになっていた70年代後半に、いきなり西日本各地で釣れ出したのです。ブリに比べて力も強く、食べておいしいヒラマサは、いきなりかっこいい憧れのサカナとして登場したのです。そして、数年で忽然と姿を消します。その後は九州の東シナ海側でこそ普通に見かけますが、それ以外の場所では幻の存在になってしまい、現在に至っています。

当時すでにダイビングを始めていた自分にとっては、水中で見たサカナがブリ(ダイバーとしては大きさにかかわらず和名のブリとします)かヒラマサかはとっても興味のある見分けの対象でした。でも確証がないまま、それ以降ずっと悩み続けてきたのです。

ブリとヒラマサの見分け方

30年の間にブリとヒラマサの見分けは、①上アゴの骨の形、②胸ビレと腹ビレの長さが、図鑑などで正式なポイントとして提唱されていますが、それ以外にも③黄色い線の太さ、④体の断面の形、⑤頭の大きさ、⑥胸ビレの位置など、個体差があるので図鑑には載せられないようですが、見分けポイントがわかってきました。

①の上アゴの骨は角ばっていればブリ、丸みを帯びていればヒラマサですが、手にとって見ることができる標本(獲物、商品?)向けの見分け方で、ダイバーには不可能です。

同じく②も、胸ビレと腹ビレの長さが同じであればブリ、腹ビレのほうが長ければヒラマサですが、①と同様、ダイビング中は見分けられません。 ③から⑥の図鑑に載らないポイントのほうが、まだしもダイバー向けなのですが、ここで、またひとつ西川流の見分け方をお話します。個体差があるので、あくまでログブックを記入する際に種を予想するための材料として見てください。

両方の分布から見て、ヒラマサは世界中の暖海に生息し、ブリは日本近海の固有種です。つまり、黒潮や親潮に乗って北上し、北方の海域でたくさんエサを食べて産卵のために南下してくるような系群が進化し、ヒラマサから種が分かれたのがブリ、と想像できます。 そうすると、栄養豊富な北の海域で食餌するので、スマートなヒラマサが太ってきて黄色の線が細くなり、断面の形が丸くなり、頭も大きくなってきます。体型がふくらんでくるので、黄色い線と胸ビレの間に白いすき間が現れます。このすき間こそ、ある程度近づけたダイバーにも何とか見分けられるポイントだと思います。

さらに、水中でヒラマサをしょっちゅう見ている長崎・上五島《ナイスばでぃー》インストラクターの今田さんから、耳寄りな情報をいただきました。ブリとヒラマサでは群れて泳ぐときに大きな違いがある、というのです。

ブリの群れがみんな同じ方向に泳ぐのに比べて、ヒラマサは群れていても小回りを利かせ、クルクルとターンしながら泳いでいるそうです。そして、ターンするときに腹ビレを立て、そこを軸にして回るので、泳ぎ方を見れば一目瞭然だというのです。実際にその後見せてもらったヒラマサの群れは個々にクルクルと転回し、そのつど腹ビレをピンピン立てていました。

だとすると私がこれまで見てきたのはすべてブリだったのでしょうか? 残念ながらその後はまだブリやヒラマサと水中で出会えておらず、確証が持てずにいます。ただ、見分け方②の、ヒラマサは胸ビレに比べて腹ビレが長いというのも、泳ぎ方と関連して発達していると思えば非常に納得がいきますよね。

どなたかこの見分け方を裏づけられるような情報を教えてください。お待ちしています。 自分としては、ブリやヒラマサと遭遇できるようなダイビングがあと何回できるかはわかりませんが、やはり一生の課題になりそうです。

筆者プロフィ-ル

西川 守(にしかわ まもる)
PADIジャパン/大阪オフィスのスタッフ。
とにかく魚が大好きで、いつもダイバー、釣師、魚屋さん、料理人のそれぞれの視点で魚を観察できる。 おかげで、いわゆるレアものより普通の温帯にいる魚が得意。 大の魚好きなことが高じて、オリジナルのPADIスペシャルティ「サカナとの遊び方SP」を作ってしまう。これまでに、白崎海洋公園、串本、越前、牟岐、大分、佐世保、上五島で、この「サカナとの遊び方SP」のイベントを開催。TVチャンピオン(テレビ東京系/現在は放送を終了)でお刺身を食べて魚種を当てるさかなクンを見て感動するが、いつの間にかそれが自分の得意技にもなってしまう。「生まれ変わったら伊豆大島の波浮港の水底で、つぶらな緑色のひとみで 仲間とひしめき合って水面を見上げているハオコゼになりたい」と常々思っている。

イラスト

友永 たろ(ともなが たろ)
イラストレーター。主に キャラクター製作、児童書イラストを描く。
魚や水生生物が大好きで、独特のタッチで描かれる魚たちのイラストはいろいろなところで目にかかることも多い。
最近ではFlashでムービー作成にはまっている。
ホームページ「ぼくのすいぞくかん(http://boku-sui.net)でイラスト&Flashムービー公開中。

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