魚観察テクニック 〜 第6回 愛すべきア・ポゴンたち

魚観察テクニック

-第6回- 愛すべきア・ポゴンたち

ロジェクトAWAREのテーマに「継続的な漁業 ― 乱獲を防ぐ」というものがあります。
日本は捕鯨問題で欧米諸国からバッシングされていますし、他のAWAREテーマにある「サメの保護」ではサメの肉(カマボコ)の消費国の国民として、肩身の狭い思いもしています。
しかし、こと漁業にかけては魚食民族の日本は先進国で、資源管理もそれはそれは徹底しています。
そして、そんな盛んな漁業と魚食文化のおかげで、日本は常に魚類研究の中心です。
今回はまさにAWARE魚の見分け方SPやアンダーウォーター・ナチュラリストSPを受講される際、すでに受講された方には講習時の様子を思い出していただきながら、サカナ観察にお役立ていただけるネタです。

ア・ポゴンとは?

ずいぶん前になりますが、2005年のプロジェクトAWAERオリジナル・デザイン・カード(右の画像)のモデルだった魚の名前をご存知ですか?
これはインドネシアのバーンガイ諸島近海にだけ生息している「バーンガイ・カーディナルフィッシュ」で、学名を「プテラポゴン・カウデルニイ(Pterapogon Kauderni)」といいます。
学名の中に“ア・ポゴン”がありますね。
“ア・ポゴン”とは実はテンジクダイ科テンジクダイ属のことで、ギリシャ語では「アゴヒゲのない」という意味だそうです。
また、英名の「カーディナル」とは枢機卿(すうききょう、すうきけい/カトリック教会の用語で、教皇に次ぐ高位聖職者の称号)のことですが、衣装が赤いので「赤いサカナ」ぐらいの意味だそうです。
雑学はこのくらいにして、今回は愛すべきテンジクダイ属の仲間についてお話していきましょう。

口内保育

テンジクダイの仲間には幼魚のときに大きな群れを作るものがいて、ひとつの磯全体を多い尽くすような群れは、ダイビング・ポイントの主な見どころにもなります。
ただし、個々のサカナとしての見どころは別にあると思います。
テンジクダイ科の特徴として、オスが口内で卵を保育します。
温帯域のダイビング・ポイントでよく見かけるネンブツダイやクロホシイチモチ、オオスジイシモチなどは、それこそ普通に見かけるサカナの代表格で、ログブックに登場することなどめったにないと思います。
ところが、夏場に口内保育を観察するときは、いきなり主役に変身するのです。

ネンブツダイを例に、口内保育の一連のプロセスをご紹介します。
時期としてはもう少し先、5月くらいからが見ごろなので、春からのダイビングの予備知識としてご覧いただければと思います。

1.オス・メスの見分け
テンジクダイの仲間は、体型や模様で区別がつくものは少ないのですが、オスは口の中で卵を保育するために喉元がペリカンのように膨らんできます。
夏場の産卵にそなえて5月くらいからペアで見かけるようになりますが、そのころにはオスとメスは喉元で見分けられるようになります。

2.準備
産卵のためにペアになると、ずいぶん前からオスはメスの下にもぐりこんで口をパクパクさせ始めます。
どうやら求愛行動らしいのですが、これはどう見ても来るべき産卵のときに備えて練習を積んでいるようにしか見えません。
そうして産卵期には、口内に卵が入っているときと同じくらい喉元を膨らませているのです。

3.産卵
産卵は私も一度しか見たことがないのですが、産卵、放精のあと、あっという間に卵塊をくわえていました。
モタモタしていると、産卵したメスや他のサカナに食べられてしまうそうです。
この様子を見ていて、このために練習を積んでいたのかなと、つい思ってしまいます。

4.口内保育中
口内に卵をくわえているオスは、口やエラをパクパクと動かして新鮮な水を循環させているので、すぐにわかります。
個体によっては卵塊が見えることもあるのですが、見えなければ斜め後ろからエラの中を覗くと卵を確認しやすいようです。
卵は最初はオレンジ色で、目ができてくると銀色になってきます。
銀色になってきたころには透けて見える色なので成長具合も予想できます。
この間約2週間。
オスは飲まず食わずでがんばります。応援したくなりませんか?
ポイントまで近ければ、様子を見に時々チェックをしに行きたいところです。
最後にハッチアウトになりますが、産卵、ハッチアウトともに夕暮れどきなので、口内保育中のオスを観察するところまでが現実的な楽しみですね。
私のよく行く和歌山県の白崎海洋公園では、口内保育中のオスだけが群れを作っていたり、シーズン終盤にオスがたくさんのお腹の大きいメスに追いかけられていたりといった光景も観察できて楽しめます。

塗り絵で見分けてみましょう

生態の紹介で興味が出てきたら、次は種を見分けてみましょう。
種が見分けられれば、各種ごとに微妙に産卵期が前後しているのもわかります。
ア・ポゴンたちはよく似た体型で、模様だけが顕著に違うので、模様のないア・ポゴンの基本形の絵に模様を入れながら覚えていただくとよろしいかと思います。
ここでは温帯域でよく見かける代表的な5種を紹介します。
ネンブツダイとクロホシイシモチがよく似ていて、オオスジイシモチ、コスジイシモチ、キンセンイシモチが縦縞のある仲間です。
ただし、それ以外にも同じ体型で違う模様の種が山ほどいますので、後は皆さん各自、図鑑などで確認してください。

●ネンブツダイ
・ 目の上に縦縞
・ 第1背ビレ前方が黒い
・ 体色は透明感のあるピンク色

●クロホシイチモチ
・ 目の上に黒い星
・ アゴ先端が黒い
・ 体色はくすんだ肌色

●オオスジイシモチ
・ 縦縞が5本
・ 尾ビレ付け根の黒点が尾ビレにかからない

●コスジイシモチ
・ 縦縞が7本
・ 尾ビレ付け根の黒点が尾ビレにかかる

●キンセンイシモチ
・ コスジイシモチに似ているが、尾ビレ付け根の黒点がない
※ 最近は目の下のラインが点のものと線のものが報告されています。

温帯以外の地域、例えば沖縄本島であれば、牙のあるリュウキュウヤライイシモチ(口内保育中邪魔にならないのか、どなたか教えてください!)や、ネオン模様のアオハナテンジクダイ、きれいなリボンのイトヒキテンジクダイなどはいかがでしょうか。属は違いますが、スカシテンジクダイだったらやっぱり脊椎をかくんでしょうね(笑)。

いずれにしても、やっぱり今回もどこにでもいる普通のサカナとじっくり遊びませんか、という提案でした。

筆者プロフィ-ル

西川 守(にしかわ まもる)
PADIジャパン/大阪オフィスのスタッフ。
とにかく魚が大好きで、いつもダイバー、釣師、魚屋さん、料理人のそれぞれの視点で魚を観察できる。 おかげで、いわゆるレアものより普通の温帯にいる魚が得意。 大の魚好きなことが高じて、オリジナルのPADIスペシャルティ「サカナとの遊び方SP」を作ってしまう。これまでに、白崎海洋公園、串本、越前、牟岐、大分、佐世保、上五島で、この「サカナとの遊び方SP」のイベントを開催。TVチャンピオン(テレビ東京系/現在は放送を終了)でお刺身を食べて魚種を当てるさかなクンを見て感動するが、いつの間にかそれが自分の得意技にもなってしまう。「生まれ変わったら伊豆大島の波浮港の水底で、つぶらな緑色のひとみで 仲間とひしめき合って水面を見上げているハオコゼになりたい」と常々思っている。

イラスト

友永 たろ(ともなが たろ)
イラストレーター。主に キャラクター製作、児童書イラストを描く。
魚や水生生物が大好きで、独特のタッチで描かれる魚たちのイラストはいろいろなところで目にかかることも多い。
最近ではFlashでムービー作成にはまっている。
ホームページ「ぼくのすいぞくかん(http://boku-sui.net)でイラスト&Flashムービー公開中。

 

ページトップ