魚観察テクニック 〜 第7回 夏から秋はキュウセンとじっくり遊ぶ

魚観察テクニック

-第7回- 夏から秋はキュウセンとじっくり遊ぶ

PADIジャパン/大阪オフィスの西川です。
私の作成したディスティンクティブSP*に「サカナとの遊び方SP」というものがあります。
このサカナとの遊び方SPを何度か夏のイベントとして実施させていただきました。
とはいっても、私が直接コースを実施するのではなく、この資格をお持ちのPADIインストラクターの方にコースを担当していただき、私はお手伝いといった感じですが…
合計で250名ほどのダイバーの方と海でご一緒させていただきましたが、その中で圧倒的に人気のサカナが、実はキュウセンでした。
たくさんの方から「こんなに身近にサカナをじっくり観察したのは初めて!」とお褒めの言葉をいただきました。正直言って、意外でしたが…
ぜひ、どこにでもいる脇役に貴方の手でスポットライトを当てて、主役になってもらいましょう。
ただし、冬眠してしまうので夏秋限定のサカナですが。
今は冬眠中ですが、情報だけでも仕入れておいていただき、シーズンが始まったらぜひ観察しちゃってください!

*ディスティンクティブ(Distinctive)とは「特有の」「独特の」という意味。PADIのディスティンクティブ・スペシャルティは、地域の特性やある分野に特化した内容が含められ、インストラクターが独自に作成し、PADIに正式に認可されたスペシャルティ(SP)コースのこと)。

人気の秘密は

人気の秘密は、ズバリ!確実に会えて、いつまででもじっくり目の前で観察できることです。 つまり、インストラクターや水中ガイドからブリーフィングで得た情報(ネタ)を、全部ダイバー自身で確認できることでしょう。
何百本も潜っているダイバーの方でも、きっとこんな楽しみ方はご存知ないのではないでしょうか。
それでなくてもフィンで巻き上げた砂煙を追いかけてついてくるサカナですが、じっくり観察するにはそれなりの場所を選びましょう。
キュウセンは夜になると砂の中で眠ります(冬眠のときも砂に潜ります)。
キュウセン ですので、生息環境として砂地が必要です。ただし、一面の砂地では地形が単調なためにハーレムの様子が観察しにくいので、砂地と岩場が混ざり合っているポイントがおススメです。
岩場の中にある小さな砂地などが最高の観察ポイントです。
ポイントを決めたら、すでにその近くをうろうろしているでしょうから、石と石を叩いて音を出したりすると、きっと全員集合してくれるはずです

キュウセン七変化

まずはキュウセンの成長段階ごとの見分け方をご紹介します。
成長に合わせてどんどん模様を変えていきますし、その模様にも個体差もありますので、見分けが楽しいサカナです。
イラストを担当していただいているともながさんからは、「たまにはキレイなサカナを描きたい」と言われていましたが、それでなくてもピカソの絵みたいなキュウセンの5形態に挑戦していただきました。

1.幼魚
幼魚は中心にある黒い線のコントラストが成魚よりもきつく、眼の上を喉まで通っていて、しっかりと眼をカモフラージュしています。黒い線の尾ビレ側は途切れて眼状班(がんじょうはん)になっている個体もいます。眼状班とは幼魚が身を守るシステムで、眼を見分けにくくする(頭の位置をわからなくする)ことによって捕食者の攻撃から身を守っているのです。捕食者に対する威嚇(いかく)の効果もあると言われています。他の幼魚にもよく見かける特徴ですね。

2.成魚(メス)
幼魚に比べて眼が見分けられるようになってきて、全長10センチほどでメスの成魚になります。きっと一番よく見かけるでしょう。この形態でメスに紛れているオス(一次オス)は、見分けがつきません。

3.性的に成熟したメス
成熟したメスに現れる特徴が二つあります。一つめは口先がほんのりと赤く染まってきます。女性らしくお洒落な感じですね。もう一つは、黒線の胸のあたりのウロコが3~4枚エメラルド色に縁取られてきます。これもまた見ためにはお洒落な感じですが、実はこの場所は性転換してオスになると10枚以上同じようなウロコが集まって大きな黒班になる場所なのです。個体数からして全てのメスがオスに性転換するわけではないのですが、メスとして綺麗に着飾りながら、すでにオスとしての形態変化が模様に現れてきます。

4.中間個体(性転換中)
キュウセンはオスとメスの模様が大きく異なるのと、性転換にそれなりに時間がかかるのとで、中間個体をよく見かけます。文献によると産卵期以降の秋に多いそうですが、実感としては冬眠あけの春先を除いて、いつもウロウロとしているように思います。ほとんど単独で、オスに追い払われていることの多いで、行動パターンからも目立つことが多いです。
ダイバーの方は中間個体に対してよく興味を持たれます。「今日はオカマちゃんを探そう!」なんてテーマで探すのもどうでしょうか。
形態変化の進行具合は主に3つのポイントの変わり具合で観察できます。

体色の変化:各ヒレの色や模様も変わりますが、体色がクリーム色から緑色に変わっていく度合いで判断するとわかりやすいです。
黒班の成長:黒線の胸のあたりに現れたエメラルド色に縁取られたウロコが少しずつ増えていきます。
黒線のぼやけ具合:黒班の成長と反比例して中央の黒線はぼやけ、波打ってきます。まるで一列に並んでいた黒いウロコが胸のあたりに集合してくるようです。

5.性転換したオス
二次オスは胸の黒班が一番の特徴です。ここはライオンのタテガミのような、オスとしてのシンボル的なものです。ですので、黒班の大きさ=男らしさと思って間違いないようです。 大きなハーレムを形成している大きなオスほど立派な黒班を付けています。

習性

形態の見分け方はおわかりいただけましたでしょうか。
では、次はじっくりと観察です。
盛夏にはきっと性転換したオス(二次オス)一匹が数匹のメスを引き連れてハーレムを形成しています。
私はサカナを観察するときには感情移入が好きなので、「こいつ態度でかいな」とつい思ってしまったりします。
オスが一番警戒しているのは我々ダイバーではなく、単独のオスや性転換中の中間個体で、少しでも近づけば追い掛け回して追い払います。
ただ、オスはよく目立つ分、外敵に狙われるリスクも大きいようです(がめついので釣りのときでもオスから釣れます)。
いなくなると、きっと狙っていたオスがやってくるんでしょうね。
ところが、メスの中にメスとそっくりなオス(一次オス)がいて、いざ産卵・放精といったときにドサクサに紛れて自分も放精してしまうそうです。
その行為を何とストリーキングと呼ぶのだそうです。この一次オスは当然ながら見分けられません。だって仲間全部を騙しているんですからね。
でも、抱卵してきたメスは卵が透けてお腹が赤く見えるようになってきます。
同じような大きさなのにお腹が赤くないメスが一匹だけ混じっていれば、「もしかして?」と予想してしまいますね。
また、抱卵しているメスにも性転換の兆しがどんどん現れてきます。彼女はどの段階で敵とみなされておいだされてしまうのでしょうか…。
と、まあ、ここまでマニアックにならなくてもよいかもしれませんが、深度は浅く、水温は高く、残圧にも余裕をもって、徹底的にキュウセンに癒されてしまいましょう。
透明度はこの際関係ありませんよね。

筆者プロフィ-ル

西川 守(にしかわ まもる)
PADIジャパン/大阪オフィスのスタッフ。
とにかく魚が大好きで、いつもダイバー、釣師、魚屋さん、料理人のそれぞれの視点で魚を観察できる。 おかげで、いわゆるレアものより普通の温帯にいる魚が得意。 大の魚好きなことが高じて、オリジナルのPADIスペシャルティ「サカナとの遊び方SP」を作ってしまう。これまでに、白崎海洋公園、串本、越前、牟岐、大分、佐世保、上五島で、この「サカナとの遊び方SP」のイベントを開催。TVチャンピオン(テレビ東京系/現在は放送を終了)でお刺身を食べて魚種を当てるさかなクンを見て感動するが、いつの間にかそれが自分の得意技にもなってしまう。「生まれ変わったら伊豆大島の波浮港の水底で、つぶらな緑色のひとみで 仲間とひしめき合って水面を見上げているハオコゼになりたい」と常々思っている。

イラスト

友永 たろ(ともなが たろ)
イラストレーター。主に キャラクター製作、児童書イラストを描く。
魚や水生生物が大好きで、独特のタッチで描かれる魚たちのイラストはいろいろなところで目にかかることも多い。
最近ではFlashでムービー作成にはまっている。
ホームページ「ぼくのすいぞくかん(http://boku-sui.net)でイラスト&Flashムービー公開中。

 

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