海の遺跡 〜 第9回 最終回
ダイバーにも知ってほしい、海の遺跡の本当の姿

海の遺跡

-第9回- 最終回
~改めて、ダイバーにも知ってほしい海の遺跡の本当の姿~

「海の遺跡」(このコラムでは「水中文化遺産」という語を主に使ってきました)をダイバーに知ってほしい、ということで始めた連載コラムも今回で最終回です。

どのようなものが「海の遺跡」なのか、研究や環境はどのような状況なのか、そしてダイバーのかかわり方などをできるだけわかりやすく記してきたつもりですが、皆さんは「海の遺跡」を理解することができたでしょうか?


海底に散らばる陶磁器の撮影状況(沖縄県竹富町・黒島沖) 2012年11月調査 山本祐司撮影

ダイバーの反応
Facebookの「いいね!」の数を見ると、多くの方にコラムを読んでいただけたようで、このテーマに関心あるダイバーが多くいることがわかりました。どこまで「海の遺跡」を理解していただけたのかは、読者のご意見やご感想を聞いていないのでわかりませんでしたが、先日、ダイバーの方と水中文化遺産について話す機会があり、コラムの感想をうかがうこともできました。その方は、水中文化遺産に興味を持っているとのことでしたが、コラムを読んでも「何かピンとこない」という感想をいただき、その理由として「何が本物なのかがわからない」、だから「本物を見てみたい」ともおっしゃっていました。
これはもっともな反応です。やはり「言葉」と多少の「写真」だけでは、理解してもらうことは難しい、ということを改めて実感しました。

見せる、見ることの重要性
この点では、アジア水中考古学研究所(ARIUA)が提唱している本物の「海の遺跡」を見てもらい、正しく理解してもらうという「海底遺跡ミュージアム構想」は有効なプログラムです。(コラム#6)
ただし、このプログラムは「遺跡」の状態、海況、現地との協力体制の構築など、諸条件が整わないと実現できません。現状では候補地が限られていることもあり、単発的にしか実現していません。新たな候補地についても、限られたマンパワーでは十分なリサーチができず、十分な情報が得られていません。このため、ダイバーや漁業従事者からの情報提供はありがたいものですし、多くの情報をお寄せいただきたいと思っています。


海底遺跡ミュージアム構想・海底遺跡見学会
(長崎県小値賀町) 事前レクチャー
2007年8月実施
アジア水中考古学研究所提供


海底遺跡ミュージアム構想・海底遺跡見学会
(長崎県小値賀町) 見学会の様子
2007年8月実施
アジア水中考古学研究所提供

また、「遺跡」であることがわかれば、保全・保護も必要となります。ただし、保全・保護と言っても、そのために立ち入りを制限し、そのままの状態を保つ、ということではありません。大いに活用してほしいと考えます。「遺跡」をポイントとして、研究者や行政との連携のうえルールをつくり活用するのであれば、何ら問題はありません。むしろ積極的にポイントとして活用してほしいと思っています。活用することにより、ダイバーに「本物」を見て・知ってもらえ、それが保全・保護にもつながるからです。

ダイバーには正しい知識のもとに「本物の遺跡」を見てもらいたいですし、その知識や知見が他所に広がることにより「本物の遺跡」を見せるポイントが増えれば、ダイバーの意識も変わると思います。そして、多くのダイバーに「本物」を見てもらえれば、何が「遺跡」なのかが「ピンとくる」ことでしょう。

最近では「遺跡」を活用している現地サービスもありますので、その取り組みは「海の遺跡」の活用方法(見せ方)およびダイバーのかかわり方の参考になることと思います。
http://ishibashi-diving.com/

研究分野での新しい試み
「研究」の分野では新しい試みが始まっています。 「海の遺跡」は、なぜ海底にあるのか、という事実ひとつをとっても考えるべきことはたくさんあります。そして、その問題を解決するためには、考古学や歴史学はもとより、地球科学の視点から考察する必要があります。また、調査方法に関しても、人間の行動が著しく制限される水中という環境においては、より効率的な方法を取り入れることが必要で、事前情報入手のための探査や測量・映像撮影のための水中ロボットの活用は必須です。

これまでも複数の研究分野のコラボ(学際的研究)はあったものの、あくまでも主研究の補完というもので、調査・研究にあたって十分な意見交換がなされたことはあまりありませんでした。遺跡としての評価が十分になされずに「遺跡のようなもの」が「遺跡」として独り歩きしてしまう、という事例は学際的な議論がなされなかった結果によるものと言えます。

このような中、近年、学際的なチームを組み、各分野の研究者が同じ立場で調査にのぞむ事例が見られるようになってきました。

たとえば、「遺跡」の測量・映像撮影に水中ロボットの有効利用を模索するための海洋工学とのコラボ、水没遺跡の成因把握のため、地震学・地質学・海洋学などの地球科学分野とのコラボ、そして「海の遺跡」を海洋資源としてとらえ、文化資源、観光資源や教育資源として活用し、その周知をとおして保全・保護に取り組むために、考古学・歴史学・地質学・海洋学・観光学・法学などの多分野とのコラボなどが実行されています。
http://blog.canpan.info/ariua/daily/201503/17
https://www.sof.or.jp/jp/news/301-350/333_2.php


水中ロボット[ROV]による調査状況
(沖縄県石垣市・石垣島沖)
2012年11月調査
山本祐司撮影

このような学際的研究の背景には、「遺跡」およびその成因を探求するということのほかに、単なる「遺跡」として狭くとらえるのではなく、「資源」としてより広くとらえ、そこから導き出される「海の遺跡」ならではのメッセージを現代社会、そして未来へ生かす資産ととらえようとする新しい可能性を追求する姿勢の表れがあります。

まとめとして -ダイバーと「海の遺跡」-
「海の遺跡」をはじめとした水中文化遺産とその研究は、まだ十分に正しく周知・理解されておらず、そのために十分な保全・保護がなされずに、なくなってしまった「遺跡」もあります。その理由として、このコラムで説明をしてきたように、水中文化遺産が「水中」にあることにより、「見えない」「見ることが難しい」ものであること、その研究とされる「水中考古学」に多くの方が誤ったイメージを持っていることが大きく影響しています。(コラム#1・#2)

現状を少しでも良い方向に向け、「海の遺跡」を守るには、やはり正しい情報を発信して、正しい情報から正しく理解してもらうことに尽きます。このコラムを書いた目的もそこにあります。

また、「遺跡」を守るためには「法」の網にかけること、そのための行政との連携も不可欠です。「見えない」「見ることが難しい」ために、「法」の網をかけることは難しい現状もありますが、発見後、正しい情報発信をすることによりこの問題もクリアできるはずです。(コラム#5)

そして、「海の遺跡」の近くにいるダイバーは、発見・調査・研究・保全・保護・活用、そして情報発信、これらにかかわることで、「海の遺跡」と社会をより近づけるハブとして重要な役割を担える可能性があります。


海底に残された四爪錨
(沖縄県石垣市・石垣島沖) 調査の様子
2012年11月調査
山本祐司撮影

水中文化遺産(海の遺跡)は身近にあります。皆さんが普段潜っているポイントにもあるかもしれません。そして、ダイビングされる際に「海の遺跡」のことを思い出して、いつものように魚や地形を眺めるつもりで、海底を眺めてみてください。「遺跡」が見つかるかもしれません。その行動が「海の遺跡」を周知し、守る第一歩になります。そのためにも、海の楽しみ方のひとつに「海の遺跡」もぜひ加えてください。

なお、ARIUAではホームページ、ブログやFacebookで関連情報を発信していますので、こちらもご覧になってください。情報の提供もよろしくお願いします。
◆ホームページ:www.ariua.org
◆ブログ「海底遺跡ミュージアム構想」:blog.canpan.info/ariua
◆Facebookページ:https://www.facebook.com/299782973479347

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