水面上まで元気に顔を出すサンゴ群。現地の人はサンゴの上でのんびり釣りをしていた。
マーシャル諸島は、ミクロネシアとハワイの間に位置する大小の環礁の集まりで、その環礁ひとつひとつは、空から見ると信じられないぐらい綺麗な環になっている。マーシャルの人々は、そんな美しいサンゴの環の、水面上に出ている部分に暮らしている、というわけだ。マーシャル諸島は空から見た美しい島々の眺めから、"太平洋に浮かぶ真珠の首飾り"とも呼ばれている。
1998年の大規模なエルニーニョによる世界的なサンゴの白化と死滅のあとは、どの国に行って潜ってもサンゴの墓場のような海しか見られない時期があって、僕は当時、本当に悲しい気持ちになっていた。そんな時、今はなき「ダイビングワールド誌」の依頼でマーシャル諸島に行くことになった。マーシャルに到着して早速海に入り、僕は満面の笑顔になった。マスクの中を、久しぶりに見る元気なサンゴたちが被い尽くしたのだ。いたるところにサンゴが付着し、倒れたサンゴにまで新たなサンゴがくっ付いて、そこから元気に成長を始めていた。あんなにパワーのあるサンゴたちがひしめき合っている海を、僕はマーシャルの海で初めて見たのだった。
あれだけ世界中で白化が起こった中でマーシャルが全然影響を受けなかったのは、マーシャルの沖合に海洋深層水が沸き上がっているからだとか、いろいろ説があったようだが、当時は「地球にはやはり底力があるんだなあ」と思ったものだった。しかし今、そんなマーシャルでも、少しずつではあるが白化が目立つようになってきているという。そしてその上もっと懸念されているのが、同じ地球温暖化の弊害である「海水面の上昇」が、海抜2メートルの"太平洋に浮かぶ真珠の首飾り"を襲いつつあるということだ。
地球には本当に底力はあるのかもしれない。だけれど人間ごと根こそぎ犠牲を強いられて地球が再生する前に、人間に与えられている"智慧"というものを使って何とかしたいものだ。まずこの美しい"太平洋に浮かぶ真珠の首飾り"を、このまま見続けられるようにしたい。
高砂淳二プロフィ-ル
たかさご じゅんじ。写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。
ダイビング専門誌の専属カメラマンを経て1989年に独立。世界中の国々を訪れ、海の中から生き物、虹、風景、星空まで、地球全体をフィールドに撮影活動を続けている。
最新作「Light on Life」をはじめ、「Dear Earth」「night rainbow」「クジラの見る夢 ~ジャックマイヨールとの海の日々~」ほか著書多数。
ザルツブルグ博物館、ニコンThe Gallery、東京ミッドタウンフジフイルムスクエア、渋谷パルコ、阪急百貨店など、写真展多数開催。2008年にはコニカミノルタプラザにて、外務省主催・太平洋島サミット記念写真展「Pacific Islands」を担当。自然の大切さ、自然と人間の関係性、人間の地球上での役割などを、トークショーやメディアを通して幅広く伝え続けている。
*海の環境NPO法人"OWS(Oceanic wildlife society)"理事
◆高砂淳二xニコン 「The Planet 2」好評連載中! http://www.nikon-image.com/sp/theplanet/
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「サンゴ」は動物の1個体、または群体の1つ1つを指しますが、「サンゴ礁」はサンゴがその石灰質の骨格を積み重ねて海面近くまで高まった地形のこと。つまり、「サンゴ」は生物、「サンゴ礁」は地形のことを指します。したがって、「サンゴ礁がすっかり死滅した」、「南の島を縁取るサンゴ」は誤った言葉の使い方で、正しくは「サンゴがすっかり死滅した」、「南の島を縁取るサンゴ礁」となります。
サンゴだけではなく、石灰藻や有孔虫、貝など、石灰質の骨格や殻を持つものもサンゴ礁をつくりだす構成要素。それらの生物が死滅すると、残された石灰質の骨格や殻が固まって長い間積み重なり、サンゴ礁の地形をつくりだします。サンゴ礁には3つのタイプがあり、それぞれに特徴が。これらの地形が、さまざまな環境を生み出し、サンゴ礁の生物の多様性を支えているといえるでしょう。
■サンゴ礁の3つのタイプ
サンゴ礁には下に紹介するような3つのタイプがある。
裾礁(きょしょう)Fringing reef
陸地とサンゴ礁が接した地形。サンゴの生育に適した海域に、海底噴火や隆起によって陸ができると、周囲の浅瀬にサンゴが付着。サンゴは外側へと成長を続け、島を縁取るようにして広がっていく。
堡礁(ほしょう)Barrier reef
陸地とサンゴ礁の間に水深数10㍍の浅い海(ラグーン)を持つ地形。裾礁の状態から、地殻変動や海水面上昇で島が徐々に沈み、潮当たりのいい外洋のほうでサンゴ礁が発達すると、このような地形になる。
環礁(かんしょう)Atoll
完全に島が沈み、リング状に島の輪郭の形をしたサンゴ礁だけが残った地形。リーフ(礁原)の上に砂が集まり、小さな島をつくることもある。モルディブやマーシャル諸島などが有名。