「野生のイルカと泳ぐ」と言っても、普通の人にはあまりピンとこないようだ。どうしてわざわざ逃げないで寄ってくるのか、エサでもあげるのか、そう思うようだ。
しかしイルカは、人間と同じ哺乳類で、好奇心もあり遊び心もある。特に子どもイルカは、人間の子どもと同じで、「怖い」という感情よりも、とにかく遊びたくて仕方がないのだ。そんなわけで、野生のイルカがエサもないのにわざわざ人間に近寄ってきて、人が海に飛び込むと喜んで遊んでくれる、ということが成り立つわけだ。
もちろんどのイルカも遊んでくれるわけではない。好奇心よりも警戒心の方が強い種類も多いし、遊び好きな種類でも、引っ込み思案のイルカもいる。
僕が今までイルカに出合った海は数しれないけれども、そんな中で、一番遊び好きだったイルカは、カリブ海のバハマの海に棲む、タイセイヨウマダライルカたちだ。始めて出合った彼らは、僕が海に入ったとたんに、サーッと周りに集まってきて、「さあ何してくれる? グルグル回ってくれる? それとも一緒に潜ってくれる?」と言いたげな顔で僕の顔を覗き込んできた。それまで、せっかくイルカに出合えても、海に入るとサーッと距離を置かれてしまうことが多かった僕は、あまりの無邪気さに面くらい、こちらが遊び心を忘れて必死に撮影したのを覚えている。
昔、《鴨川シーワールド》のベルーガ水槽に潜って、シーワールド・カレンダーのワンカットを撮影していたときのこと。ご存じのようにベルーガは、白い肌をもった、動きの柔らかいイルカ。そのベルーガが撮影中に僕に詰め寄り、そのねっとりと白い肌をこすりつけ始めたのだ。その行為はなんとも艶めかしく、明らかに僕に異質な興味をもっているように思えた。僕は初めは撮影ができずに困っていたのだけれども、そのうちなんかちょっと僕まで怪しい気分になってきてしまった。こんなことがあるのか! 僕は恥ずかしいやら、ソワソワするやらで、撮影どころではなくなってしまったのだった。
この話にはオチがあって、後日そのベルーガはオスであることが判明。単なる僕の勘違いだったことが分かった(でもない?)
去年の12月には、ハワイ島のコナ沖で、ハシナガイルカの群れに遭遇した。ハワイのハシナガイルカはまだ警戒心が少ないが、一般的にはちょっと警戒心の強いタイプ。案の定、群れは僕をちょっと避け気味に泳ぎ去ったのだけれども、その中にいたとても珍しい白いイルカが一頭、僕のところにやってきて、遊びたげにうろうろし始めた。ちょうど小さなヤシの実が水面に浮いていたので、僕はそれを取ってちょっと放ってみた。すると白いイルカはそれを鼻で押して持ってきてくれた。僕はまたそれを放る・・・。夢のような"ヤシの実キャッチボール"の実現となったのだった。海は本当に何が起こるか分からない・・・。
高砂淳二プロフィ-ル
たかさご じゅんじ。自然写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。 ダイビング専門誌の専属カメラマンを経て1989年に独立。 海の中から生き物、風景まで、地球全体をフィールドに、自然全体の繋がりや人とのかかわり合いなどをテーマに撮影活動を行っている。 著書は、月の光で現れる虹を捉えたハワイの写真集「night rainbow ~祝福の虹」(小学館)をはじめ、「虹の星」、「free」、「BLUE」、「life」(ともに小学館)、「ハワイの50の宝物」(二見書房)、「クジラの見る夢 ~ジャックマイヨールとの海の日々~」(七賢出版)、「南の夢の海へ」(PIE BOOKS)など多数。 2011年5月には、ハワイの写真集「Children of the Rainbow」(小学館)が発売された。 「太平洋島サミット記念写真展"PACIFFIC ISLANDS"(コニカミノルタ・プラザ)」 、ザルツブルグ博物館、渋谷パルコ、阪急百貨店など、写真展多数開催。
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