タイのアンダマン海は、僕には"海の優等生"的な印象がある。サンゴもきれいだし、マンタやサメ、時にはジンベエザメといった大物も現れる。その上、きれいな水中写真の被写体にもってこいの、カラフルなソフトコーラルやスズメダイ、スカシテンジクダイの大群などが、透明で美しいブルーをバックに並んでくれているのだ。大物から小物まで、どれも80点以上の高得点を得られる実力があって、しかもデイトリップでも楽しめるのに、欲張りなダイバー用に優雅なダイブクルーズも用意されている。"海の大型デパート"のようではないか。
僕はもちろんクルーズ派だ。いい場所にできるだけ長くいて、多く潜れるのは単純にありがたいし、大きな水中カメラをたいてい2~3台ほど使うので、それらを毎日持ち運ばなくてもいいというのも、この上なくありがたい。
用意するカメラのうちのひとつは魚眼レンズ付きカメラ。大物や、大きな群れ、ソフトコーラルなどを、雄大なブルーの景色とともにダイナミックにおさえるのにもってこいのカメラだ。もう一つはワイドレンズや標準ズームレンズの付いたカメラ。水中の光景を切り取って、自分の見た世界を表現するのにふさわしいカメラだ。どれもこれも、アンダマン海を撮るには欠かせないものばかり。
ある時トラフザメが2尾、僕の目の前ですれ違った。普通、1尾のトラフザメでも至近距離まで近づけるチャンス自体なかなか少ないものだが、アンダマン海では、こんなこともありなのだ。彼らの表情は、近くで見るとサメには珍しくとてもカワイイものだった。ちょうどいいワイドレンズのカメラを持っていてよかった、と思った。どれか持って潜らなかったかったときに限って、持ってなかったカメラにふさわしい被写体が現れたりするものなのだ。特にアンダマン海のような海では・・・。
シミラン諸島には、巨大な岩がゴロゴロと水中に並んでいるポイントがある(上写真)。あまりにも広範囲に渡るので、はじめは全体像がよく分からなかったのだが、その風景を魚眼レンズの付いたカメラで覗いて見た途端、その並び方の異様さに驚いてしまった。それはまるで誰かが運んで並べたかのような、遺跡のような風景だった。実際この写真は、不思議もの系の専門誌『ムー』編集部の目にも止まり、大きく掲載されることとなった。
高砂淳二プロフィ-ル
たかさご じゅんじ。自然写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。 ダイビング専門誌の専属カメラマンを経て1989年に独立。 海の中から生き物、風景まで、地球全体をフィールドに、自然全体の繋がりや人とのかかわり合いなどをテーマに撮影活動を行っている。 著書は、月の光で現れる虹を捉えたハワイの写真集「night rainbow ~祝福の虹」(小学館)をはじめ、「虹の星」、「free」、「BLUE」、「life」(ともに小学館)、「ハワイの50の宝物」(二見書房)、「クジラの見る夢 ~ジャックマイヨールとの海の日々~」(七賢出版)、「南の夢の海へ」(PIE BOOKS)など多数。 2011年5月には、ハワイの写真集「Children of the Rainbow」(小学館)が発売された。 「太平洋島サミット記念写真展"PACIFFIC ISLANDS"(コニカミノルタ・プラザ)」 、ザルツブルグ博物館、渋谷パルコ、阪急百貨店など、写真展多数開催。
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