船尾の14cm砲は砲身までしっかりと残っている。
~石廊~
全長:143.48m
全幅:17.75m
排水量:14,050トン
水深:15~35m
2回目となるこのコラムでは、パラオを代表するレック「石廊」を紹介したいと思う。この船は1918年(大正7年)の「八六艦隊計画」と呼ばれる当時の海軍の軍備計画の中で建造された、日本海軍の特務艦、商船式の艦隊随伴型タンカーの一隻であり、1922年に大阪鐵工所(現:日立造船)にて竣工した。
艦名は伊豆半島・石廊崎に由来するもので、よく間違えられるのが、パラオの沈船であれば「てしお丸」「忠洋丸」といった船ように、名前に「丸」がつく船は、民間から軍が徴用して運用した「特設艦船」と呼ばれるもので、「石廊」は海軍所属である艦船であり「丸」がつくことはない。
第二次世界大戦の開戦時には旧式化しており艦隊随伴任務にはほとんど用いられず、南方からの資源還送などに従事したが、1944年の3月30日のパラオ大空襲で被爆、翌31日の空襲で大破擱座し翌月に完全に沈没した。
ちなみに、この「石廊」は知床型給油艦の7番艦であるが(石廊は襟裳型給油艦とも呼ばれている)、すぐ近くで眠っている「佐多」は同型の4番艦であり"姉妹艦"である。
この「石廊」は、先述の通り、パラオで最も有名なレックである。全長が143mと非常に大きなサイズの沈船となっており、通常のレクリエーションの範囲内でのダイビングの場合、一度で全てを回り切ることは難しい。外観では、艦尾で見ることのできる大砲「50口径三年式14cm砲」が見どころのひとつで、砲座から砲身までしっかりと残っている。この大砲を支えている砲座は元々鋼製のフレーム上に木板を張っていくものだが、現在は腐食により抜け落ち、フレームだけとなっているところに、年月の経過を感じずにはいられない。
このコラムをご覧いただいている皆さんは、パラオの沈船で何を見たいと思うのだろう?
未だに残る武器や弾薬、ペネトレーション(船内探索)などをした場合、多くのバルブや計器があるエンジンルームであったり、その船に残っていた特徴的な物はガイドをしてもらっていてもよく紹介されるものである。
ひとつの提案として"生活感"という部分にフィーチャーしてみることをお薦めしたい。この「石廊」でも、士官クラスが使っていたと思われる「洋式便器」(建造が大正期にも関わらず洋式便器があることに違和感を感じる方もいるかもしれないが、当時の海軍は洋式便器などの採用に積極的だったそうだ)、「和式便器」、他にも「お風呂」や「寝台」「調理場」「ビール瓶」など、多くの"生活感"を感じることができるものを見てとることができる。当時、この船に乗っていた人がどのような生活をしていたのか、それらを知ることでいつもとは違ったレックダイビングの面白さを得ることができるのではないだろうか。
また、これだけ大きな船である。当時の図面なども残っており、それらを元に緻密なペネトレーションの計画を立てるなどして、テクニカルダイビングをしたいダイバーの欲求にも、当然のように応えてくれる沈船である。
筆者プロフィ-ル