透視度が良いので少し離れても綺麗に撮影が可能な船首。
~てしお丸~
全長:93m
全幅:13.76m
排水量:2,845トン
水深:12~25m
4回目のコラムとなる今回、バベルダオブ島の西に位置し、コロールからボートで15分、湾内にある他のレックに比べ、潮当たりが良い場所に位置し、比較的透視度も良いことが多い「てしお丸」を紹介する。過去の記録などを遡ると、しばしば「天塩丸」と漢字で記載されているのを見かけるが「てしお丸」が正解である。
「てしお丸」は戦時中、量産を目的に設計され多く作られた1CRS型の戦時標準型貨物船「神靖丸」級の1隻であり、九州造船若松工場で昭和18年8月に竣工、他にも同型が34隻建造された。建造当初は北海道炭礦汽船株式会社に属していたが、合併などを経て三井船舶の船となる。
この「てしお丸」は主にニューギニア方面の輸送などに従事していたが、1944年3月30日のパラオ大空襲の際、台湾の高雄に向かおうとしたところ、30機の艦載機の攻撃を受け航行不能となり、漂流。その後、サンゴの上に擱座し放棄された。現在のように海底に眠ることになったのは戦後である。
先述の通り、他のレックに比べて透視度が良いのが特徴。なので、少し船体から離れても問題なく船とわかる形で撮影ができるので、ぜひメインカットのようなアングルでの撮影をお薦めしたい。
船体に関しては、船首、艦橋、船尾と綺麗に残っているのだが、どうやら戦後にサルベージを試みたようで、船の中央あたり、船倉周辺はかなり激しく損傷している。艦橋部から船尾にかけてペネトレーション(船内探索)も可能だが、サルベージの影響により鉄骨などが飛び出している場所も多く、身体を保護する意味でもウェットスーツなどは必ず着用して欲しい。
船首にあるこの船の象徴とも言えるのが、「短十二糎砲(たんじゅうにせんちほう)」と思われる大砲。前回のコラムで紹介をした「忠洋丸」にもそれらしき大砲があったが、こちらのほうがしっかりと形が残っている印象だ。艦橋に目を向けると長い年月を経て腐食した結果、天井の板などが失われ、現地のガイドの言葉を借りると「ジャングルジム」のよう。損傷著しい船倉付近からは、まだ床のタイルなども残っているキッチンにアプローチすることも可能で、当時の船での生活を感じることができる。
船自体はさほど大きくなく、水深も最深部で25mほどなので、レクリエーションの範囲でまわることが可能となっており、水深やサイズ感も含め、パラオのレックの中でも非常に潜りやすい代表的な船のひとつと言えるだろう。
筆者プロフィ-ル