楽しい気象学入門

-第6回- うろこ雲が出たら3日のうちに雨、ひつじ雲が出ると翌日雨

「うろこ雲が出たら3日のうちに雨」、「ひつじ雲が出ると翌日雨」というような、うろこ雲やひつじ雲を悪天の予兆とすることわざが全国にたくさんあります。
これはかなり当てになる便利なことわざで、まず7割くらいは当たると思っていいくらいです。
気象庁が発表する天気予報の的中率が80%強ですから、これは近代的な天気予報にも劣らない、かなりの高確率といえるでしょう。
しかし、このことわざを知っていても、うろこ雲やひつじ雲がどんな雲なのかわからないと、宝の持ち腐れです。
ここはひとつ、こうした雲の俗称もさることながら、十種雲形という雲の専門的な分類方法を覚えてしまいましょう。

十種雲形というのは、さまざまな雲を、その形と出現高度によって分類したもので、国際的に同じ分類で運用されているものです。
10種類というとずいぶん細かいように思えますが、高さと形の組み合わせなので、実際はそれほど覚えなくても大丈夫です。
まず、雲の形の分類は、空一面に薄く層状に広がる層雲と、ひとつひとつの雲が丸い塊になっている積雲の2種類です。
さらに雲が出現する高さは、高度5000m以上の高さに現れる上層雲(頭に"巻"がつく)、高度2000mから7000mくらいの高さに現れる中層雲(頭に"高"がつく)、もっとも低いところに現れる低層雲の3種類に分けられます。

この組み合わせで、例えば上層に現れる積雲は「巻積雲」、中層に現れる層雲は「高層雲」、低層に現れる層雲は、頭に何もつかない「層雲」という具合に6種類は埋まります。
さらに、上空だけに現れる、積雲でも層雲でもない筋のような「巻雲」、積雲がつながって層になっている、積雲と層雲の両方の形を併せ持った「層積雲」、今日口的な激しい雷雨をもたらすことが多い、地上近くから上空まで高くそびえ立つ「積乱雲」、そして、地上から中層までの高さで広い範囲に広がる雨雲の「乱層雲」の4つを加えると全部で10種類になります。

このうち、冒頭のうろこ雲やひつじ雲と呼ばれている雲は、「巻積雲」あるいは「高積雲」です。比較的高い空に現れる雲で、形や大きさの揃った小さな雲が等間隔で広がり、まるで魚のうろこのように見えたり、ひつじの群れのように見えたりすることから、そう呼ばれます。
他にも、魚のサバの体の模様のように見えることから「サバ雲」、イワシの群れのようにも見えることから「イワシ雲」とも呼ばれます。
なぜか魚に例えられることが多いのは、もともと漁師さんが言い習わしたものなのかもしれません(ちなみに、ひつじ雲は英語を日本語訳にしたものだそうです)。

さて、なぜ巻積雲や高積雲が悪天候の予兆なのかというと、そのヒントは味噌汁にあります。
味噌汁(豚汁のようにあまり具沢山でないほうが望ましいです)に手をつけずにしばらく放置すると、表面に所々味噌が湧き上っては沈み、まだら模様が現れてきます。
この現象は、暖かいお味噌汁の表面が冷えることによってお椀の中で小さな対流がいくつも起こるもので、ベナール対流という現象です。
巻積雲や高積雲もまさに同じ現象で、上空で対流が起こり始めていることの現れなのです。

このように上空で温度のアンバランスが生じるのは、空気の入れ替えが始まっている可能性が高く、高気圧が抜けかかっていて、低気圧や前線が接近していることを示唆しています。
つまり、巻積雲や高積雲が現れたあとは天気が悪くなるということが予想できるのです。

夏が過ぎて、空気が乾いて澄んでくると、上空まで見通しが利くようになり、さまざまな雲が見えるようになってきます。
空に白い碁石を並べたような、あるいはちぎれた布を規則正しく並べたような雲が現れたら、もう海は要注意です。
海に行く計画を立てるのに集まった食事会ではサバの塩焼き定食(味噌汁つき)でも注文して、計画には慎重な検討を。
軽はずみな行動は戒めましょう。

うろこ雲、ひつじ雲、さば雲、いわし雲・・・

本文で説明のあるように、「巻積雲」や「高積雲」はうろこ雲、ひつじ雲、さば雲、いわし雲などと言われています。
これらの雲を明確に区別する定義はないため、どれも間違いではありません。
見た目で判断して結構です。
これらの雲は、日本では台風や移動性低気圧が多く近づく今の時期に特に多く見られ、秋の象徴的な雲だとされることから、秋の季語にもなっています。
うろこ雲、ひつじ雲、さば雲やいわし雲という親しみやすい庶民的な呼び名であるところから、古くからたくさんの句が詠まれており、現代の俳人にも人気のある季語です。
まさに「天高く馬肥ゆる秋」を象徴するような雲です。

筆者プロフィ-ル

森朗(もり あきら)
気象予報士。TBSテレビ「ひるおび!」など、テレビ・ラジオ番組に多数出演。
趣味はマリンスポーツ。2017年7月よりウェザーマップ代表取締役社長。著書に「海の気象がよくわかる本」「風と波を知る101のコツ」「サーファーのための気象ガイドブック」など。

 

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