乱獲・汚染・絶滅 - 母なる海に迫る危機

ワールド・イズ・ブルー

-第5回- 海はゴミ箱?

私はこれまで30年間あちこちの海に潜ってきたが、毎回必ず目にするのがゴミだ。ビンや靴、皿、バケツ、フォーク、おもちゃ、歯ブラシ、デッキチェア・・・挙げだすときりがない。

一人乗りの潜水艇ディープ・ローバーで水深300メートルほどまで潜水したときのこと。なにやら異様な光を放つ深海生物がいると思って、驚かさないように1時間近くかけてゆっくり近づいてみると、そこにあったのは海底に半分埋まったソーダ缶だった。北極から南極まで、海洋の全域が、世界中の人間たちが捨てた大小さまざまのプラスチックなどのかけらで埋まっているのである。

海に堆積したゴミのなかで、何よりも量が多く、有害なのがプラスチックである。プラスチックは、その用途の多さや耐久性、たやすく成型できる特性で、私たちの生活に深く入り込んでいる。私もプラスチックの歯ブラシで歯を磨くし、プラスチックの櫛で髪をとかし、プラスチック製品であるフリースを着る。

とはいえ、問題は私たちがプラスチックを使うかどうかではない。あまりにも多くのプラスチックが短期間使われただけで捨てられ、その結果、世界の自然を永久に変えてしまうことが問題なのだ。

海にゴミがあふれている、こんな現状のなかでも救いはいくつかある。

一つは、人間がもたらすこうした容赦ない影響も、健全な自然のシステムの中ではいずれ和らぐ可能性があるということだ。以前私は、チャレンジ精神旺盛なヤドカリを見つけたことがある。巻き貝の殻の代わりに、捨ててあった鎮痛剤の容器にちゃっかりもぐりこんでいたのだ。現代ならではの軽くて耐久性のある住処だ。

近くのリーフでは、クモガニの仲間であるモクズショイが、藻やヒドロ虫などと一緒にファストフード店のケチャップの小袋を上手に背中に乗せて、あたりに落ちているほかのゴミのなかに見事に紛れこんでいた。また、チューク環礁にある第2次世界大戦時の沈没船は、魚たちの美しい住処に姿を変えている。

もう一つの救いは、ゴミの影響を減らすための人間のボランティア活動が広がりつつあることだろう。たとえば、米国ハワイ州のあるボランティアグループは、体にからみついたカニ漁の仕掛けを引きずったまま、遠くアラスカ海域からやってきたザトウクジラを自由にしてやっている。漁具の表示マークを見れば、どこから来たかはすぐわかるという。

現在では世界中で海岸の清掃活動が組織され、岸に打ち上げられた有害なゴミの回収が行われている。スキューバダイバーを動員して、水中に沈んだ放棄漁具やゴミを回収している地域もある。

このような大きなゴミと比べ、はるかに回収しにくく、たちが悪いのが、プラスチックの小さな破片や、ナードルと呼ばれる粒状のプラスチック原料だ。軽くて弾力性のあるこの粒は飛散しやすく、容易に配水管に流れこんだり、吹き飛んで川に入ったり、そして最終的には海に流れこむ。

清掃活動で回収されたペットボトルなどは、さまざまな新しい用途に再利用できる。しかし、プランクトンに混じりこんだ小さな破片を回収するとなると、そう簡単ではない。プラスチック片を漉しとれる道具には、プランクトンも引っかかってしまうからだ。

それよりも「むしろプラスチックが流れこむ元を断つべきだ」と言うのは、元実業家で、サーファー、船長でもあるチャールズ・ムーアだ。彼は海のプラスチック汚染について最初に警鐘を鳴らしたひとりでもある。

ムーアは1999年に行った調査で、太平洋ゴミベルトからサンプルを集め、生きたプランクトンとプラスチック片の重量を比較した。結果は1対6でプランクトンの方がずっと少なかった。なんとプランクトン1キロに対してゴミが6キロもあることになる!

それから10年後の2009年にカリフォルニア州で行われた講演会で、ムーアは海で拾ったゴミで作った帽子と虹色の首飾りを身につけて講演し、喝采を浴びた。講演の後、彼は最近採取したばかりというプランクトンが入ったビンを私に見せてくれた。小さな生き物たちは、色とりどりの破片に取り囲まれて行き場を失っていた。

「こんなことは何としても止めなくては。海を殺してしまうよ」とムーアは嘆いた。

続きは、 ナショナル ジオグラフィック日本版公式サイト読みいただけます。

この連載は、書籍「ワールド・イズ・ブルー」(シルビア・アール著、日経ナショナル ジオグラフィック社)から抜粋、編集したものです。

書籍の紹介はこちらをご覧ください。

筆者/シルビア・A・アール

1935年米国ニュージャージー州生まれの海洋探検家、海洋学者で、ナショナル ジオグラフィック協会付き研究者。 ニューヨーク・タイムズ紙から「深海の女王陛下」「チョウザメ将軍」などのニックネームを与えられ、1998年にはタイム誌の「地球のヒーロー」に選ばれた。 海洋生態系調査における第一人者として総計6500時間以上、70回を越える潜水遠征をし、水深1000メートルでの単独潜水を含むさまざまな潜水歴をもつ。 2009年には、「世界を変えようとしている人物」に毎年贈られるTEDプライズを受賞した。 著書に「ワールド・イズ・ブルー」、「深海の女王がゆく」など

訳者/古賀 祥子(こが さちこ)

東京外国語大学外国語学部英米語学科卒。翻訳家。『なぜ女は昇進を拒むのか』(共訳、早川書房)、『アイデアマップ』(阪急コミュニケーションズ)、『この「聞く技術」で道は開ける』(PHP研究所)などの訳書がある。

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