水中写真家・茂野優太、テクニカル・ダイビングへの挑戦

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今注目を集めている水中写真家・茂野優太氏が活動の幅を広げるべく、PADI TecRecプログラムの登竜門、「PADIテック40コース」を受講し、TecRecダイバーとしてのあらたな扉を開きました。
PADIジャパンは茂野氏の講習に帯同し、PADI TecRecプログラムのイメージ動画を制作。
新たな挑戦へと踏み出した茂野氏の想い、そしてその想いを受け止めコースを担当したPADI Tec Deepインストラクター野村昌司氏にお話を伺いました。

テクニカル・ダイビングとは?

レクリエーショナル・スクーバ・ダイビングの限界を超える、別のダイビングとして定義されます。
  • 40m/130ftを超えるダイビング
  • 段階的な減圧停止を伴うダイビング
  • 水面からの縦、横合計距離が40m/130ftを超えるオーバーヘッド環境(直接水面に浮上できない環境)でのダイビング
  • ダイビング中、加速減圧及び/又は様々な混合ガスを使用するダイビング、等
テクニカル・ダイビングでは、緊急時においても簡単に水面に上がることができないので、テック・ダイバーは幅広い手順と技術を使用し、追加されるリスクに対するトレーニングを行ないます。

※コース情報:テクニカル・ダイビングに挑戦!

茂野優太 Yuta Shigeno

Underwarter Creator
PADI Tec40 Diver

鎌倉生まれ、伊豆半島を拠点にしつつ、色彩をテーマに世界の海の豊かさや魅力を写真、映像、文章、ガイドと様々な視点やアプローチから発信。新しいことへのチャレンジも積極的で、新しい形態の作品展企画や、カメラマン同士のコラボレーションチーム創設などにも取り組む。
ウェブサイト:https://shigenoyuta.com/

茂野さんが今回テックダイブに挑戦した理由をお聞かせください。

茂野:1番の目的はより安全に撮影を長く続けるためです。テックダイブというと大深度やレックやケーブなど特殊環境に潜るイメージが強いですが、僕がテックを始めようと思ったキッカケはその過程にある安全管理を正しく学ぶことで、今後のダイビング活動をより安全に潜り続けていくことが出来るのではないかと思ったからです。また写真家として憧れられる存在であるためにキチンとしたスキルで正しく潜る姿勢を大事にしたいと思いました。

実際に経験してみていかがでしたか?

茂野:正直、自分のスキルや安全管理の甘さを痛感しました。
ウエイトバランスによるトリムの調整や装備の合理性を考えシステムを調整することで、今までのダイビングより格段に潜りやすくなり、撮影効率も上がりました。テックの真髄は装備やスキルに対する徹底的な合理性なのではないかと思いました。
またトレーニングの大事さや手順の確認の大切さも身に染みました。
今では安全停止中などはトリムの練習や手順の確認、そして潜水前の念入りな器材チェックが癖になりました。

後のダイビングや創作活動にどのような影響が期待できそうですか?

茂野:撮影という点では水平トリムが取りやすくなったことにより、特にワイド撮影での取りやすさ。そして重心のバランスや正しい姿勢がわかることにより着底しない環境でのマクロ撮影は格段にやりやすくなりました。
もちろんテックを使って誰も撮っていない世界を撮りたいという気持ちもありますが、いまは真摯に自分のスキルを磨き、ゆくゆくはそういう世界も撮影しにいきたい。
テックを学ぶことで自分の現在地を知ることができ謙虚に自分の目標に向かい合うことが出来るようになりました。

テック・ダイビング未経験の方々へメッセージをお願いします。

茂野:テック・ダイビングというと危ないというイメージを持っている方も多いと思います。もちろん大深度などリスクが伴うことは間違いないでしょう。
しかし、その知識とスキルを持ってレジャーの範囲で潜ることで、より安全に潜ることが出来るでしょう。僕自身、正直なところ撮影中にちょっと危ないことや無理をすることもありましたし、これからも予期せぬ事態は起こるかもしれない。そういった時に安全に対処できるようになるためにも、テックを学ぶ意味はあると思います。

僕の正直な気持ちはもっと早く学んでおけば良かった。
皆さんもぜひ挑戦してみて下さい。

野村昌司 Masaji Nomura

PADIマスター・インストラクター(PADI#806374)
PADI Tec Deepインストラクター

日本屈指のテクニカルダイビング・インストラクターであり、安全管理の厳しいテックダイブのノウハウを活かし、ダイビング全般の安全啓蒙にも取り組んでいる。
水中冒険家、ハードな環境でも撮影できる水中カメラマンとしても活躍し、様々なテレビ番組への映像提供なども行う。

テック・ダイビングの魅力について教えてください。

野村:これまで多くの経験をしてきたダイバーにとってもよりダイビングの領域を広げ、様々な景色を目にできることだと思います。ダイビングの楽しみ方は無数にあり、人それぞれだと思いますが、書物や映像を通しての情報ではなく、実際にその領域に到達した時の心の底から感じる喜びや感動は他で味わうことはできないのではないでしょうか。私自身、大深度への挑戦や未開の洞窟、歴史ある沈没船内部への進入などテクニカル・ダイビング領域だからこそ見られた景色をあげたらキリがありません。

茂野さんへのテック・トレーニングを提供するにあたり、強調した点はどのようなところですか?

野村:私はダイビングを始めて30年以上の月日が経ちましたが、約20年前にテクニカル・ダイビングと出会うまでは、無謀な潜り方をする「愚か者ダイバー」でした。
それからテクニカル・ダイビングを学ぶ機会があり、自分がどれだけ危険なことをしているのか、愚かだったかを知り、それ以来学び続け、トレーニングを重ねています。
水中世界のリスクはゼロには出来ません。リスクを知りその事への対処法を身に着けることで、リスクを減らし、万が一の時にも対応出来るように継続したトレーニングが重要だと思います。影響力のある水中写真家である茂野優太さんには、より良い手本になってもらえるよう、テクニカルの考え方や取り組む姿勢を強調してお伝えしました。プロ活動をする方、ベテランダイバーの方などは、様々な領域や環境で潜る機会があると思いますが、テクニカル・ダイビングのノウハウを活かし、自分自身のリスク管理を正しく行うことで、自分だけではなくダイビングフィールドも守られると思います。

テック・ダイビングは安全管理の究極形とも言えるかと思います。ここから応用して、一般的なリクリエーショナル・ダイビングにも活かせる安全アドバイスがあればお願いします。

野村:テクニカル・ダイビング領域では、減圧停止が伴う又は頭上閉鎖環境下により、緊急時に水面へ直接、あるいはすぐに浮上ができない場合があります。したがって、テクニカルダイバーはトラブル対処を全て水中で行わなければなりません。テクニカルダイビングコースでは、トラブルを予防すること、そして万が一トラブルが発生してしまった場合のスキルトレーニングから、重装備を取り扱う上での継続したトレーニングの重要性や、見栄や虚勢をはって無理をしてはならないこと、仲間内のプレッシャーに屈してはならないことなど、ダイビングに向き合う姿勢に関しても扱います。これは決して特別なことではなく、一般的なレクリエーションダイビングであっても必要です。オープン・ウォーター・ダイバーコースでのトラブル対処のスキルなどもコース後に練習する方は少ないと思います。非日常世界での活動を楽しむ上で、トラブルへの対処の継続したトレーニングで安全を確保すること。計画を立て、必要な器材を正しく使用し、緊急手順を決め、ルールを守り、仲間とは協力しても依存しないことなど、楽しさは安全の上にあることだと忘れずに、水中世界を楽しんでいただきたいと思います。


40mを超える大深度、沈船や洞窟の中の探索など、テック・ダイビングには特別な環境を安全に潜るためのノウハウが沢山詰まっています。
皆さんも未知なる世界、更なる冒険に旅立ちませんか?

左から:鈴木智子氏(PADI Tec Deepインストラクター)、野村昌司氏、鈴木雅子氏(PADI Tec Deepインストラクター)、茂野優太氏

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