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第1回 「青い」地球はなぜ大切なのか

環境(グリーン)問題が見出しを賑わすこの頃だが、緑(グリーン)も生命も、「青(ブルー)」がなければ地球上に一切存在しえないことに気づいている人は少ないようだ。

「青」、すなわち水こそが生命のカギである。

水があればどんなことも可能だが、水がなければ生命は存在しない。宇宙のほかの場所に生命を探す人たちがまず力を注ぐのは、「水を見つける」ことだ。

太陽系にもその外側にも、水は比較的広く存在する。彗星はおもに岩石と水でできていて、言ってみれば泥だらけの雪玉だ。氷に覆われた木星の衛星エウロパには膨大な量の凍結水が存在するらしく、氷の数キロメートル下には液体の水もあるのではないかと言われている。最近では火星に水が存在することが確認された。

太陽系のなかで私たちの住む地球だけが、豊かな液状の水に恵まれた場所と考えられている。ここには塩水の海があるだけでなく、その海は生命に満ちている。その生命がおよそ40億年もの時をかけて、岩石と水だけだった惑星をまったく違う種類の場所に変容させてきたのだ。

周回軌道上のスペースシャトルから見ると、地球の大陸はきらめくインディゴブルーに抱かれて浮かぶ島のように見える。その大量の青い水は地球の表面の3億3144万1932平方キロを覆い、深さは平均で4キロメートル以上、最も深いところでは11キロに及ぶ。

「もし海が明日干上がったとしても、なぜ気にする必要がある?」
1976年に、あるオーストラリア人記者がそんな疑問を呈したことがある。私はそれを聞いて、もしそのように胸の痛む事態になったりしたら、と考えさせられた。

海のない地球を想像してみてほしい。地表を覆う塩水がなくなれば、やがては極地の氷や湖、川、地下水、雲といった淡水もすべて消えてしまうだろう。そして、地球上の生命もすべていなくなる。生命の存続に必ずしも必要でないものはたくさんあるが、天体物理学者クリストファー・マッケイの言葉を借りれば、「生命に絶対不可欠な唯一のものは水」なのである。

海にすむ光合成微生物がいなければ、おそらく地球の大気は、二酸化炭素が95%以上を占める火星の大気に近いものになっていただろう。海の微生物たちは35億年も前から酸素を大量に生成し、今、私たちが当たり前に思っている大気を作り出していた。そのプロセスは今も続いている。人間はもちろん、樹木や花よりもはるか昔から存在するこの微生物の大群がいなければ、現在知られている生命は存在しえなかったのだ。

私たちが「青い」地球を大切にすべき理由は、それだけではない。

海は、気候や天候を左右し、気温を調整し、大気から大量の二酸化炭素を吸収し、地球上の水の97%を保持する。そして、生物圏の97%を抱えている。
海には日光の当たる表面から最も深いところまで、どこよりも圧倒的に豊富で多様な生物が存在する。日光が届かない海底の下でさえ、深さ何キロにもわたって水を含んだ亀裂があり、その中に厳しい環境に耐える多数の微生物がすんでいる。光合成ではなく、周囲の鉱物から化学エネルギーを得る化学合成というプロセスによって生きる微生物だ。

また、海は水分を大気中に放出することによって地球の化学作用を制御する。その水分が雨やあられ、雪となって陸地と海に返り、川や湖や地下水を絶えず元の状態に戻しているのだ。

たとえ海を見たことも触れたこともない人でも、その人が吸う息や飲む水、摂取する食べ物にはすべて海がかかわっている。どこにいる誰でも、海と分かちがたくつながり、海の存在に完全に依存しているのである。

今、地球の生命維持システムである海が壊れつつある。それなのに、誰が注意を向けているだろう?

ph

Image Courtesy of Sylvia Earle archives

book続きは、ナショナル ジオグラフィック日本版公式サイトでお読みいただけます。

この連載は、書籍「ワールド・イズ・ブルー」(シルビア・アール著、日経ナショナル ジオグラフィック社)から抜粋、編集したものです。

書籍の紹介はこちらをご覧ください。


筆者プロフィ−ル

シルビア・A・アールシルビア・A・アール
1935年米国ニュージャージー州生まれの海洋探検家、海洋学者で、ナショナル ジオグラフィック協会付き研究者。ニューヨーク・タイムズ紙から「深海の女王陛下」「チョウザメ将軍」などのニックネームを与えられ、1998年にはタイム誌の「地球のヒーロー」に選ばれた。海洋生態系調査における第一人者として総計6500時間以上、70回を越える潜水遠征をし、水深1000メートルでの単独潜水を含むさまざまな潜水歴をもつ。2009年には、「世界を変えようとしている人物」に毎年贈られるTEDプライズを受賞した。著書に「ワールド・イズ・ブルー」「深海の女王がゆく」など

訳者プロフィ−ル

古賀 祥子(こが さちこ)
東京外国語大学外国語学部英米語学科卒。翻訳家。『なぜ女は昇進を拒むのか』(共訳、早川書房)、『アイデアマップ』(阪急コミュニケーションズ)、『この「聞く技術」で道は開ける』(PHP研究所)などの訳書がある。

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