ダイビングを楽しむ上での絶対的なルールの1つに「バディ・システムの厳守」があります。これは、単独(自分ひとり)で潜るのではなく、パートナーと一緒にダイビングを行なうことで安全性/楽しみが増加する、という理由で、レクリエーショナル・ダイビングでは必須とされています。
自分とバディの2人だけでダイビングを行なう場合はもちろんのこと、インストラクター又はダイブマスター等がリーダーシップをとるグループでのダイビングにおいても、バディ同士の協力は必要不可欠でしょう。
同様に、テクニカル・ダイビングもパートナーと一緒に行なわれるのが通常であり、結果的に安全性/楽しみが増すことに変わりはありません。ただ、テクニカル・ダイビングが行なわれる環境がレクリエーショナル・ダイビングと比較して過酷であるが故に、お互いが「頼る」関係であるという意識は排除されなければなりません。即ち、ダイビングのパートナーはいわゆる既知の「バディ」(ともすれば単に一緒に潜る人)ではなく、「ダイビング・チーム」を構成する「自立」したダイバー同士により行なわれるダイビングである必要があります。
テクニカル・ダイビングのチーム内では「お互いの不足しているものを補いあう」という関係は成立しません。各自が責任を持った自立したダイバー同士がチームを構成するのであり、緊急時であっても自分ひとりで反応し、対応するよう準備しておきます。 もし自分がトラブルに遭遇した際に、最初にチームメイトに頼ることを選択する場合、チームメイトの手助けが得られなければ、なす術がなくなってしまいます。この点はレクリエーショナル・ダイビングでも同じですが、テクニカル・ダイビングはリスクが大きいだけに、致命的になる可能性が極めて高くなります。
それでも、もし、緊急時に対する自分自身の第一、第二、又は第三のバックアップがあるにもかかわらず、その全てに失敗した場合、「自立」しているチームメイトが側にいれば、複雑な緊急事態の対応が極めて簡単になり、助かる確率が非常に高くなるでしょう。このチームメイトが提供してくれるバックアップは「バックアップ・ブレイン」と呼ばれます。すなわち、チームメイトはお互いがバックアップのブレイン(脳)になることにより、プレダイブ・チェックの時点からダイビング中、終了時に至るまでの間、トラブルの可能性を軽減してくれます。
テクニカル・ダイビング自体、チャレンジ性が高く、ダイブ・プランを立てる段階から情報の共有を含めた多くの点でチームメイトとは共通の認識を持たなければなりません。お互いが自立しているダイバーであるが故に、お互いの信頼関係はより深いものになり、チームメイトに対するダイビング・パートナーとしての責任を自覚しているので、共通のダイビング目的(コースではミッションと呼ばれます)を成功させた際の達成感は、通常のレクリエーショナル・ダイビングでは味わえないくらい高いものになります。
最大深度40mまでの無減圧で行なわれるレクリエーショナル・ダイビングも水の中に入ることに変わりはなく、常に相応のリスクは存在します。いかなる認定ダイバーも、本来はトレーニング・レベルに応じて自立しているはずであり、例えばオープン・ウォーター・ダイバーはオープン・ウォーター・ダイバーとして、レスキュー・ダイバーはレスキュー・ダイバーとして、自分が行なうダイビングに対し責任を持たなければなりません。
その点において、「チーム・ダイビング」という考え方をレクリエーショナル・ダイビングに取り入れることは決して大げさなことではありません。現にテクニカル・ダイビングのトレーニングを終了した多くのダイバーが、レクリエーショナル・ダイビングを楽しむ際に、そのノウハウを有効活用しています。そうすることで、同じダイビングを行なう場合でも(同じ時間とお金を使っても)、安全性と楽しみの質が確実に向上することを彼らは実感しているからです。