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楽しい気象学

第1回 春一番

海の水は、絶え間なく動いています。
海面は波が立ったりうねったりしますし、海岸線は潮の満ち干きによっても変わります。
海流や潮流はまるで川のように流れています。

こんなに海水が動く原因は主に3つ。
ひとつめは海水自体が温度や塩分濃度に応じて重さや体積が変わること。
2つめに、月や太陽の引力。3つめは気圧配置と海面を吹く風です。
潮汐や海流など、半日から数年くらいの周期で起こる、緩やかな動きに関係するのは、主に最初のふたつ。
一方、日々刻々変わる海面の波やうねりを左右するのは、気圧配置と風です。

よく地元の漁師さんが、「ここいらは東風が吹くと荒れる」とか、「日本海に低気圧がやってくるから海に出ないほうがいい」などと言いますが、こうした経験則も、風を根拠にいているものがたくさんあります。
ということは、地元の細かい地形による影響などを除けば、風がわかることで海の状況を予測できるわけです。

では、どうすれば風を予測することができるのでしょうか。
答えは簡単、天気図を読むことです。

天気図というと、なんやらぐにゃぐにゃと線が描いてある中に高気圧やら低気圧やら、聞き覚えはあるものの意味不明なものが散らかっていて、とっつきにくい印象があるかもしれませんが、実はそんなに難しいものではありません。
風の性質と天気図の読み方を知れば、大体の風と波の予想はできますし、後は細かい情報を地元で仕入れれば完璧でしょう。
多少専門用語なども加えて海の状況を予想すれば、インストラクター並みに、他のダイバーには頼もしく見えるはず。
そうなるための第一歩は、まず風の性質と、波との関わりを知ることです。

一般に、強い風が吹くと波が高くなると思われていますが、波の高さを決めるのは風の強さだけではありません。
風の強さもさることながら、重要なのは波が十分発達できるだけのスペースです。
どんなに強い風が吹いても、小さな池では高さ何mもの高波は出現しません。

01
波の大きさは、風の強さ、風が吹き渡る距離、風が吹き抜ける時間によって決まる。
ト02
波は風下に向かって発達するので、風が海から陸に向かって吹く所では海岸で高波に、陸から沖に向かって吹く所では沖に行くほど高波になる。
03
同じ風でも、狭い湾の中などでは波は発達しないが、湾の外に出るといきなり波が高くなっていることがある。

波は風上から風下に向かってだんだん発達しますから、波が十分高くなるには、何十キロ、何百キロという長い距離を風が吹き渡る必要があります。ですから、陸から海に向かって風が吹いているときには、海岸では波が小さくても、沖に行くほど波が高くなります。
反対に、沖から陸に向かって風が吹いているときは、海岸近くでもかなり波が高くなります。
また、湾の中では波が十分に発達できませんが、広い外海に出たとたん、波が高くなるのもよくある話です。

もうひとつの要素は、風が吹き続ける時間です。
どんなに強い風でも、一瞬だけであれば海面がザワッとするだけで、波は発達しません。
波は地球の引力に逆らって海面が盛り上がる現象ですから、放っておくと引力に引き戻されて、すぐに平らな海面に戻ってしまいます。波が発達するには、長い時間風が吹き続ける必要があるのです。強い風が、長時間、長距離を吹き抜ければ、それだけ波が高くなり、海は荒れます。
ならば風が止めば、いきなり海が静かになるのかというと、そんなことはありませんし、風が弱い海域は波がまったくないのかというとそうとも限りません。

よく弾むボールを地面に落としたときを想像してみてください。
ボールは何度も弾みながら、だんだん停止します。
波もこれと同じで、風が止んでも、しばらく上下運動を繰り返します。
また、池に石を投げ込んだときのことも想像してみてください。
石が落ちた場所では、バシャッと波が立ち、その後、そこから波紋が周囲に広がっていきます。
海でも同じで、どこかで波が高くなると、その周囲の風が吹いていないところまでうねりが広がっていきます。

天気図には、どこで、どのくらいの風が、どのくらいの時間吹くのか、ということが描いてあります。
ですから、どこの海が荒れて、うねりがどこからどこへ広がるのか、慣れれば一目でわかるようになります。
出し惜しみするわけではありませんが、具体的な天気図の読み方はまた後の回でお伝えしたいと思います。


春一番 春一番
冬の間吹き続けた北風に変わって、春先最初に吹く南風の暴風。1859年、長崎県壱岐の漁師53人が突風に襲われ、遭難したのをきっかけに、漁師の間で春一、春一番と呼び習わされたもので、日本海で低気圧が発達したときに吹きやすい。
ほのぼのとした名前とは裏腹に全国的に大荒れの天気となり、海は大シケ。しかも翌日には風が強い北風に急変して、冷え込むことが多い。


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