あの小笠原が、「東洋のガラパゴス」と呼ばれてしまうほどの、圧倒的な存在感をもつ南米の秘境、ガラパゴス諸島。
どこの大陸とも地続きだったことがないため、海をはるばる渡ってこの島々に辿り着いた生き物たちが、まったく違う環境で独自の変化を遂げた風変わりな動物たちと化し、島々を闊歩しているのだ。これはもちろん島の上の話だけではない。絶海の孤島とほかの大陸との間を自由に泳いで行き来できる生き物など、そんなにいるわけがない。やはり海の中も、陸と同様とても独特なのだ。
ガラパゴスの海といえば、濃厚な海の色と魚影の圧倒的な濃さが印象的だ。南米大陸に沿って南極の海流が上ってきているため、ガラパゴスは赤道直下なのに水が冷たい。その冷たい海流と赤道の温かい海流が入り混じり、ここではプランクトンがどんどん生まれ、生態系の巨大なピラミッドができ上がる。
一度、巨大な魚群に囲まれて、右も左も見えないほどの状態になったことがあった。昼間なのにあたりは真っ暗。まるで洞窟ダイビングをしているようだった。あれほど濃密な魚群を超えるものに、いまだ出合ったことはない。
世界の気象を変えてしまう「エルニーニョ現象」は、このガラパゴスのあるあたりの海水温が上昇することから始まるという。凄まじいエルニーニョのあった1998年にガラパゴスに行ったときのこと。いつもなら20度前後しかない海水温が、この時は30度ほどととても暖かく、水はクリスタルクリア。しかしそんな、ガラパゴスらしくない空っぽの海は、ガラパゴスの生き物に栄養を与えられず、たくさんのイグアナやアシカたちが死んでいったという。この時のエルニーニョで、世界の海水温が上がり、沖縄やモルディブ、フィリピンをはじめ、世界中のサンゴが白化現象を起こし、死滅してしまったのは記憶に新しい。
この海が元気でいられないと、世界の海の元気がなくなるのかもしれない。
生き物のパワーが溢れたガラパゴスでは、もちろんそんな彼らの交尾活動も盛ん。
あるときウミガメが産卵するというビーチに、早朝に上陸した。すると、産卵を終えて海に戻ろうとするメスを、オスたちが波打ち際で待ち構えていて、複数のオスが交尾を迫った。
元気なオスもオスだが、メスもさるもの。気にいったオス(?)を選んでさっそく交渉成立。産んだ直後にすぐにまた生産活動に励んでいた。脱帽でした!
高砂淳二プロフィ-ル
たかさご じゅんじ。自然写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。 ダイビング専門誌の専属カメラマンを経て1989年に独立。 海の中から生き物、風景まで、地球全体をフィールドに、自然全体の繋がりや人とのかかわり合いなどをテーマに撮影活動を行っている。 著書は、月の光で現れる虹を捉えたハワイの写真集「night rainbow ~祝福の虹」(小学館)をはじめ、「虹の星」、「free」、「BLUE」、「life」(ともに小学館)、「ハワイの50の宝物」(二見書房)、「クジラの見る夢 ~ジャックマイヨールとの海の日々~」(七賢出版)、「南の夢の海へ」(PIE BOOKS)など多数。 2011年5月には、ハワイの写真集「Children of the Rainbow」(小学館)が発売された。 「太平洋島サミット記念写真展"PACIFFIC ISLANDS"(コニカミノルタ・プラザ)」 、ザルツブルグ博物館、渋谷パルコ、阪急百貨店など、写真展多数開催。
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