カナダは野生の生き物の宝庫だ。なかでもカナダ北部の中央に位置するチャーチルという町には、ホッキョクグマ、ホッキョクギツネ、そしてシロイルカ(ベルーガ)など、白くてかわいい生き物たちが暮らしている。
僕はここに、夏にはベルーガを見に、冬はホッキョクグマを見に、合計2度訪れている。ベルーガを見るツアーでは、ハドソン湾に魚を追ってやってきたベルーガたちを、ドライスーツを着て水面に浮かんで、ボートにゆっくりと引っ張られながら観察する、というものだった。
若いころ僕は、鴨川シーワールドでベルーガの水槽に潜って何度も水中撮影をした経験がある。いつもいつも好奇心旺盛のベルーガに、白くふにゃふにゃの頭でカメラごと押されて壁に押し付けられたり、その笑ったような大きな口でストロボを咥えて引っ張ってからかわれたり、という具合だった。
野生のベルーガたちは、もちろんそこまで激しいアプローチはしなかったが、「キュルルン・キュルルン」と鳴きながら、わざと(?)盲点からギリギリまで近づいてきて喜んだり、鯨類としてはとても珍しい、縦にも横にもしっかりと動く首をひねって、面白そうにこちらを覗き込んだりしていた。
緑色に濁った水が白い体を包み、まるで怪しく発光する生き物のように見えるベルーガのその表情は茶目っ気たっぷりで、鴨川でのほろ苦い(?)経験を思い出させてくれた。
長くダイビングをしてきた中で、「白」で忘れられないものは、やはり1998年に起こった世界的なサンゴの白化現象だ。色素をもった褐虫藻が海水温の上昇で外に飛び出してしまい、サンゴの海一面が真っ白になってしまったのだ。やがてその不気味な白いサンゴたちは死滅して、まるで魔法をかけられたように、その形のままみんなただの「石」と化してしまったのだった。
高砂淳二プロフィ-ル
たかさご じゅんじ。自然写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。 ダイビング専門誌の専属カメラマンを経て1989年に独立。 海の中から生き物、風景まで、地球全体をフィールドに、自然全体の繋がりや人とのかかわり合いなどをテーマに撮影活動を行っている。 著書は、月の光で現れる虹を捉えたハワイの写真集「night rainbow ~祝福の虹」(小学館)をはじめ、「虹の星」、「free」、「BLUE」、「life」(ともに小学館)、「ハワイの50の宝物」(二見書房)、「クジラの見る夢 ~ジャックマイヨールとの海の日々~」(七賢出版)、「南の夢の海へ」(PIE BOOKS)など多数。 2011年5月には、ハワイの写真集「Children of the Rainbow」(小学館)が発売された。 「太平洋島サミット記念写真展"PACIFFIC ISLANDS"(コニカミノルタ・プラザ)」 、ザルツブルグ博物館、渋谷パルコ、阪急百貨店など、写真展多数開催。
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